パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

香水ブランドができるまで⑤ 香水瓶探し perfume bottle

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香水瓶探し perfume bottle

 

私は香水瓶を探していた。

なぜならば、日本には気に入ったボトルがなかったのだ。
 
16年前に、一人で仕事を始めて、香料をようやく手に入れたものの、香水は入れ物がなければ持ち運ぶことはできないし、ボトルが素敵でなければ手に取ってもらえない。
 
「香水瓶は、鏡台の上に置いた時から香り立たねばならない」といったのはフランソワ・コティ
「ボトルは香水の住む家」といったのは有名なボトルデザイナーのピエールディナン。
 
フランスにはあんなにたくさんのボトルがあるのに、、、
 
海外ブランドの香水瓶はとてもきれい。
でも、そこまでオリジナルのものでなくても、もう少しベーシックなものがあるのではないか。
 
実際、わずかではあるが目にしたことはある。ようやく探し当てた素敵な既製品の瓶は、フランスの製造メーカーから最低6000本のオーダーで輸入しなければならないという。
 
 
当然大手化粧品会社は自分のブランドのオリジナル型を持っているし、小さい化粧品会社は香水を作ることはあまりないようす。
 
ほかに、国産ボトルの買えるところがないか、香料会社や、パフューマー、瓶の問屋さんなど関係のありそうなところに聞いても、さっぱりたどりつくことはできない。
 
のちに、逆に他社パフューマーに「さとりさんの香水瓶を分けて」と言われることすらあった。
香水を作る製造過程はかなり分業化されており、香料業界といえどもドンピシャの人でなければ知らないらしい。
 
そのころは、インターネットの検索なんかほとんど使われていなかったから、電話帳で調べて日本のボトル製造メーカーも訪ねてみた。
 
いわく、日本での需要は薬瓶とか食品用のボトルがほとんどで、既成の香水瓶は限られているとか。
そういえば、どこのメーカーに行っても同じボトルが置いてある。
オリジナルの香水瓶を作るためには金型から作る必要があり、となると最低ロットも多い。
 
フランスのきっちりしたボトルを作るオートメーションの機械では、1日の製造数は万単位。
日本でも千単位でないとコストに見合わない。
 
ある程度の大きな仕事があれば別だが、当時の私ではとうてい1年で消費するのには無理な数字だった。
 
 
 
そうはいっても仕事には喫緊(きっきん)に必要なので、とりあえずできるだけシンプルなボトルを探し、それを使いながら模索を続ける。
『瓶がシンプルならば、ラベルやちょっとした工夫で素敵になるはず・・・』
 
パソコンとプリンターの使い方を調べ、紙屋さんやハンズなどで素材を選び、今思えばこういうことが、少ない数でもなんとかやりくりする方法を覚えるのに役に立っている。
また、スクールで教えるのにも、そういった実践的なエッセンスが生きていると思う。
 
「あれがないからできない」とかいわないよう、問題解決法を学んでもらいたい。
 
まあ、一行で言ってしまえば、たった一行のことであるが、この行間(ぎょうかん)にある苦労を察していただければ幸いである。(苦労自慢が受けるのは昭和世代だけかもしれないが)
 
 
2年くらいそんなふうに探していただろうか、ある日、フランスに縁のある人と会った時、その話をしたら、「じゃあ、フランスへ行って探したらいいですよ」
なんて軽く言われ、
『そんな、雲をつかむような...。』
 
と絶句したところ、
 
「行ってみたら?」という周りの声で、その後アシスタントをしてくれることになるR子ちゃんと行くことにする。
 
ちょうど、マルセイユに知人もいたので、香料を探しに行くことにした。
 
 
 
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