パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

黒文字(くろもじ)採り

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黒文字(くろもじ)という植物がある。お茶席でお菓子と一緒に出される楊枝に使われる。これは、和菓子を切って食するためのもの。もち菓子などがくっつかないように、濡らして出す。

 

和食のお店でも、黒文字の小さい楊枝を食後に出されることがある。女性がシーハーするのは顰蹙(ひんしゅく)ものだけど、この楊枝は、ちょっと山椒のようなスパイシー感があるシトラスの香りがしてよいものである。

よい香りがする植物なので、香料が採れる。なかなか採算に合わないので、商業ベースにはならないようだ。さわやかな中に、ちょっと変わったえぐみのような感じがあるので面白く、処方の中に少量組んでみたこともある。

知り合いの香料会社の人に、「黒文字を取りに行くからいかない?」と誘われた。数年前のことだ。東京近郊のある山に生えているという。

その日は、林野庁の方たちの下草刈りの後ろにくっついていくのだそうだ。明後日、フランスに発つ予定だったので準備があり迷ったが、『なかなか機会がないと見れないな・・・。』

山の持ち主にも許可を得ているということだし、「緩斜面の雑木林の中にパラパラとはえているから、散策しながら午前中いっぱいで帰れる」という言葉に、ハイキングに行くような軽い気持ちで「じゃあ行きます」と返事をした。アシスタントも一緒に・・・。


当日の朝、駅で集合だが彼はちっとも来ない。こちらは林野庁の人たちの顔をしらないので、どの人たちかちょっとわからないし、携帯もつながらないので、もしや場所を間違えたかとやや不安。

30分ほど遅れて、彼が到着する。ただ単に遅刻しただけだった。わりにアバウトな人だったのを思い出し、今日のことが思いやられる。

車で現地近くまで行き、いったん小屋のようなところで身支度をする。あれ?みなさんかなり重装備。スパイクのついた靴なんか履いている。緩斜面じゃなかったのかな・・・?

一応、私もそれなりに歩ける紐靴に長そでの服装をしてきたが、アシスタントはサンダルを履いてきている。いくらなんでもこれはまずいということで彼女は長靴に履き替えさせられる。・・・話が違うかも。小屋からみんなで列になって舗装道路を歩き、しばらく行くと、先頭がつと道をそれる。

エエエエッ!!

道をそれるというよりも、いきなり山の中に入っていくではないか!!!

 

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しだいに、緩斜面どころか、よじ登るというかんじ。(写真ではそれほどでもないようにみえるが・・・。そうなってからは写真どころではなかった)

 

皆さんすいすい登っていらっしゃるが、足もとの土は崩れて4つ這いになりながら、こちらはついていくのに必死。「あの、これ、どのくらい登ったら目的地なんですか?」思わず彼に聞くと、彼もまた先導する人たちに聞きに行く。「2時間くらい登ったら頂上だよ」

 

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ガーン。じゃ、帰りも2時間?「まあ、途中で黒文字を見るだけ見たら我々だけ先に降りてもいいですよ~」彼は困ったような笑顔で答える。ううーむ。そういえば、以前にも似たようなできごとがあったのを思い出す。

 

 

一瞬ここから引き返そうかと思ったが、せっかく来たのに・・・という気持ちもあって、「やむなし!」と開き直ってついていくことにした。

明日に続く・・・。

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