この白い細長い紙は、ムエット(匂い紙・scent strip,smelling-strip)といいます。
香料や香水のにおいをかいで評価するための紙です。
昨日は、店頭などに並んでいるブランドの広告用ムエットを紹介しましたが、通常ラボで使うムエットは白く、細長い、少し厚いこのような形をしています。
香料会社によって、もっと幅広の物を使うところもあります。
アトマイザーで吹き付けるときは広い方がいいのですが、細い香料瓶の口に差し込むにはこのくらいの幅が便利です。
また香りの評価をするときは、連続して長時間かぎません。
数回すって、頭の中で反芻し、またちょっと嗅ぐ、という調子です。
ムエットにつける量は、紙の先にほんの少しでよいのです。
香料の付いたムエットの端は2センチほどのところで折り、テーブルに置いておき、また時間をおいてチェックして、匂いの経時変化を見ます。
色が白いので香料の色なども見ることができます。
そして、紙自身のにおいがないのも、このムエット用の特殊な紙の特徴です。
一度においをつけた紙は使い捨てです。
同じ香りであっても、なんどもつけ直しをすると、ラストのところばかりが濃くなってしまいます。
これではちゃんとした評価ができませんので、1回づつ新しいものを使います。
そのため、ムエットは一日にひとりで何十本も使います。
この細い一本の紙は、普通紙に比べとても高価なものです。
昔、まだ仕事を始めたばかりの頃、他の紙で代用できないかと思い、紙屋さんに問い合わせてみたことがあります。
これなら濾(ロ)紙が近いだろうということで、ろ紙用の紙をこのサイズに切って作ってもらいました。
しかしいざ使ってみると、香料の香りに混じって、紙のにおいが評価の邪魔をするのです。
ダンボール紙を濡らして、ちぎったときのような臭いがほのかにします。
このにおいは、フルーティな香りを評価するときはさほど気にならないのですが、ムスクや、ムスクの入っている調合香料をつけたときに、その異臭が最も強調されるようでした。
香水は、わずか十万分の1の処方割合を調整しながら調香していきます。
やはりムエットには専用の紙でないと役に立ちません。
せっかく手間をかけて作るのです。
紙を惜しんで、香料を無駄にするほどつまらないことはありませんね。
一日に出るムエットや、楊枝(ようじ)を袋にまとめて捨てると、匂いが袋を通して匂ってきます。
バニラの香りや、マルトールという砂糖菓子の香りをたくさん使った後の袋には、おやつが入っているのかと思ってしまうでしょうね。
楊枝?その理由はまた次の機会に。