クロモジと言えば、お茶席で出される主菓子(おもがし)につけられる、4寸ほどの長さのよい香りのする楊枝(ようじ)である。
また、料亭などでも食後にクロモジの小さな楊枝を出される。
人前のお席ではいくらなんでもシーハーできないのであるが、そういうお店はたいていお化粧室にも置いてあったりするので、うがいをした後でこのクロモジを噛むと口中がさっぱりする。
クロモジは落葉樹林の中に生える低木で、めだたない地味な植物だ。
生の枝葉の香気成分はリナロールやバラの成分ゲラニオール、森林調のシネオールなど。サンショのようなスパイシー感もわずかにある。
春の始めに先駆けて、クロモジは花をつける。
きみどりの小さな花そのものからは香りはしない。
雌雄異株で、この写真の株に咲いているのは雄花とみられる。
クロモジの香料は今はあまり製造されていないが、昔は輸出までされたそうである。
くろもじを見ると決まって思い出すのは初夏のあの日。
クロモジの香料を採っていた香料会社の人と五日市の山に入り、遭難しかけたこと。(ちょっと大げさ)
山に登ったのは2007年だったからもう8年になるのかあ。今となってはいい思い出だ。
同じクスノキ科のクロモジ属には、シロモジ:Lindera triloba 、ダンコウバイ:Lindera obtusiloba 、アブラチャン:Lindera praecoxなどがある。
この上の写真は、クロモジによく似ているがアブラチャン。
花だけをアップにしてみれば似ているが、何度も見ているうちに花の付き方で違いがわかってくる。どれも材を折ると、弱いながらもクロモジのような香りがする。
アオモジは同じクスノキ科だが、分類的にはちょっと遠い。
この時期の蕾の付いた枝ものがお花屋さんで売っている。
やはり枝葉をもむとシトラスのようないい香りがする。
香料ではリトセアキュベバ(Litsea cubeba 、リツェアキュベバ)と呼ばれている。