
ハナヒラク、Hana Hiraku 第⑧話<完結>
こうして、香水「ハナヒラク」ができる途中には紆余曲折(うよきょくせつ)があり、
2016年10月15日にようやく世に送り出す事が出来たのである。
今朝はお礼がしたくなり、気が付けば新宿御苑の朴(ホオ)の木に向かっていた。
透明な秋の日を浴びて、まだ葉は青さを保っている。
新宿御苑に通い始めてもう10年になる。
大きな樹は、心の拠り代(よりしろ)。
朴(ホオ)の木は、
巡りくる春、夏、秋、冬を見せ続けることによって、
誰しもの夜は明けて、必ず朝が来るものだと教えてくれた。

朴の木の下で考える。
私の「ドライオリエンタル」の考案は、日本の気候風土で生まれ、醗酵(はっこう)し、
香水のタイプに醸成した。
乾いているけれど、砂漠の砂のようにさらさらではない。
腐葉土のように、ほっこりと暖かい和のオリエンタル。
寒い日には襟元からふわふわと香って、心を温めてくれるに違いない。

「そういえば、マグノリアのイラストを書いたことがあった。」
帰路、御苑の林を散策しながら思いだした。
大昔の調香ノートを引っぱり出し、発掘したのは20年以上前に私が書いたスケッチ。
下の方に、magnoliaというつづりと、右のページには簡単な処方が書いてある。
ホワイトフローラルが中心となった、香料10点余りの短いベース。
今みると粗いけど、懐かしいな。。。

朴の木をはじめとする、マグノリア類への熱い思いはずっと昔に始まっていたけれど、
「ハナヒラク」に本格的に取り組んでから、ちょうど1年。
どこで完成と決めるのはいつも難しいけれど、ひとつの到達点には届いたと思われる。
秋が実りの季節だとすれば、
再び、私の引き出しに「喜び」と呼ばれる種子を集め、
別のトレイの中からは「ベース」というタマゴのいくつかを孵(かえ)し、
「次の香り」を育て始めなければならない。
冬がやってくる。
ー了ー
朴(ホオ)の木: 学名:Magnolia obovate 日本特産種
大木になると幹が直径1メートル、高さが30メートルにもなる落葉高木。朴(ホオ)の木の大きな葉に、味噌や餅を包んで焼いた朴葉みそ、朴葉餅や、皿として使うなど、日本では昔から生活に根ざした歴史があります。5月頃にクリームホワイトの20センチにもなる大きな花を枝先に咲かせ、その香りは風に乗って遠くまで届きます。