パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

黒文字(くろもじ)採り 3

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続き・・

 

とりあえず黒文字(クロモジ)を一本手にして、下へと道を急ぐ。降りてんだか、ずり落ちてるんだか、よじ登ってきたような急な坂を下るのもつらい。が、道がおかしい・・・。

 

 

かなり降りたところで、下に落ちる崖に行きあたってしまった。低いコンクリートの壁が横に続いている。フェンス沿いに今度は西へと移動する。みんな寡黙・・・。初めに登ってきた道を、東に横に移動してから降りたんだから、西へ行けば元の道に戻れるはずだよね。ね?

移動するったって、ただ水平に歩いて行くわけではない、起伏もある。ところが、なんと今度は上にそびえる崖に行きあたってしまった。

どうやら、上に登ってさっき横に移動したときに、小さな尾根を超えたか、断層を降り過ぎてしまったようだ。それで、下から移動しても、壁に阻まれてしまい元の道へ戻れない。ガーン!

 

くたくたでボーゼンとしながら、今日中に帰れるかしら?「調香師ら3人○○山で遭難」「無謀!軽装で!山を甘く見たか」などという新聞の見出しが頭の中に浮かぶ。ま・ず・い。アシスタントを連れてきた責任もあり、さっきかいた背中の汗が冷たくひえる。

大げさなんだけど、その時はそんな気分で。ようやく気を取り直し、また、一回上に登って、もと来たように上から迂回して戻ることにした。はあ、も一回登って降りるのかあ。。。


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なんとかふもとにたどり着いて舗装道路に出た時、太陽はサンサンとアスファルトを焼き、薄暗い木立から一転まぶしい世界へ戻る。何か、白日夢を見ていたかのようだ。

 

 

 

 

 

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ヘロヘロになりながら、車の置いてある小屋まで戻った時は本当に感無量。3人で、「ああ、よかった。」と喜び合う。なんでもない里の花が、愛おしく思えちゃったりして。

 

 

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ゲットした黒文字は一枝。彼を駅で降ろし、アシと二人帰る道々、小枝をもむと、甘さとスキッとしたシャープな香りが車内に流れる。だが、アトリエに着いた時はもう、少し乾いてしまい、葉もチリチリになりかけている。パチっともとのほうの枝を折ると、まだリナロールのようなさわやかな匂いが、しかし残っていた。

 


摘んでからできるだけ早く採油しないといけないと言っていたっけ。前回は、伊豆のほうの丘陵地で、割に密生していたそうだ。「黒文字の楊枝という商品があるのなら、まとまって栽培しているところがあるはず」と提案したが、すでに千葉のほうの産地でやってみたこともあるそうだ。楊枝にならない部分を使って採油したが、匂いが弱かったらしい。

ハーブでもそうだが、やはり野生のものがよい匂いなのかもしれない。環境に耐えると、強くなるのかな。

興味のある素材ではあるが、少量でもいいので安定的に入荷できないと処方に組むのは難しい。プライベートな香りに限定的に入れるだけである。

いろいろできない経験をするというのは、後になっていい思い出だ。旅の珍道中はそんなのばっかし。最後にフォロー。彼はとってもいい人なんだよね。アバウトだけど。

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