淡いピンクの小さい缶の中には、実にこの下の下にも、これでもかというほどぎっしりクッキーが詰まっている。
あいだに詰めものなんかなくて、たくさんの種類が肩をよせあうように、何層にも入っているのだ。
奇抜なものでも、特別におしゃれというわけでもないが、口にするとカリッと香ばしく、くどくない。「昔のビスケット」というような素朴さもある。バターやミルクやバニラたっぷりというようなものでもなく、最近の洋菓子のブームの中にあっては、やや地味かもしれない。
村上開新堂は、明治7年創業の、宮内庁御用達のお店である。やんごとない方が安心して召しあがれるお味、とでもいおうか。
お使いものがあまったのだろう。このクッキーもときどき家にあって、何気なくぼりぼりと食べていたものだ。家から5分のこのお店、注文してから3箇月は待たないと買えないし、何日に来て下さいと向こうから指定されるらしい。
ほかにも、ミカンゼリーとか、お正月にはオードブルを頼んだり、父の病中にはここのコンソメスープをよく買いに行った。本当に正統派なのだ。
ちなみにこのクッキーの香ばしさをフレグランスの素材だけで作るのは難しい。最近の甘いグルマン系の香水には、フレーバー(食品用香料)を使っている。