パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

甘食(あましょく)

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甘食(あましょく)って知ってる?

 

富士山のような形で、上がちょっと噴火したように割れている。食べると口の中がモソモソするので、牛乳と一緒に食べる。今は上品なスイーツがたくさんあるので、若い人は知らないだろうが、スーパーマーケットのパン売り場にひっそりと置かれているのをいまだに見かける。


昭和のはじめ、私の母の子供時代のことである。まず、お菓子は仏壇に供えられる。お母さん(私の祖母)がいいというまではもちろん食べることは許されない。

子供だから、「たべたいな、たべたいな、いつもらえるのかな」と仏間をのぞきながら、時にはこっそり手にとって、匂いを嗅いだりしては元に戻す、を繰り返していたのが、この甘食なのだそうだ。

時間がたつと、固くなってしまう。ようやく手に入れて食べさせてもらった甘食は、本当においしかったそうだ。

だから、母にとっては特別な思い入れのあるお菓子。思いきり食べられるような年になっても、懐かしさもあってか、私のおやつにもよく出された。


私にとっては、もっとおいしいものがたくさんあったので、大人になってからはあまり手を出さなくなったが、母はよく買ってきては、毎回のように「昔の味はこんなじゃなかったけどねえ」と言いながら食べていたものだ。

「味覚が肥えてきた分、まずく感じるのかしら?味が変わったのではなくて、自分が変わったのかな・・・?」思い出の中で美化されてるかも、と言っていたが、それからウン十年。

つい先日、母はにこにこして「昔のまんまのおいしい甘食をみつけた」といって私に出してくれた。と、いうことは、やはり昔の味は幻想ではなかったのだ。

「こんなに近くに売っているとは気がつかなかった」「もっと早く見つけたらよかった」などといいながら、一袋5個入りを一日で食べてしまうほど喜んでいる。そこは、麹町3丁目あたり、新宿通りに面した「なかむら」という小さいスーパー。(注:あの有名な「中村屋」ではない)


たぶん戦後、だんだん食糧事情がよくなってきたので、ミルクやバターやベーキングパウダーなどを使って素材を上等にしたのだろう。結果、味も香りも素朴さを失ってしまったとか?私の憶測では、昔はきっと、重曹(じゅうそう)を使っていたに違いない。

その甘食は、最近ほかで売っているのとは違う昔の味。ほのぼのと甘く、ヘリのあたりが香ばしい。小さい頃の「私の思い出」の味、というより、私の「母に対する思い出」の味である。

 

 

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