昨年の暮れ、ゲランのレストランがフランスのシャンゼリゼにできた。
レストランは有名なシェフがやっているそうだが、驚くのはそのサロン・ド・テ。
紅茶についているフレーバーは、「シャリマー」、「ミツコ」、「ボルドヌイ」など、なだたるヒストリーパフュームばかりである。
これらの香水は、フレーバー(食品香料)としては最も難しそうなコスメティック(化粧品的)な香り。
オリエンタルやシプレータイプのフレグランスは、食品と対極にある。
このシリーズの香水、どんなお味かと思って私が飲んだのはシャリマー。
うーん。
フレーバーとフレグランスのギリギリの境界線で確かに「シャリマー」の特徴を出している。
日本人のテイストにはちょっとしつこい気もして、何杯もは飲めないけど、たまにだったらとてもおしゃれな、お仏蘭西の香り。
シャリマーをこんな風に絶妙に紅茶に仕上げるなんて、さすがだと思う。
フレグランスの世界にフレーバーが入ってきて久しい。
2000年以降のグルマン系香水は、私たちが小さいころから馴染んでいるお菓子の香りを取り入れ、さらに甘さを強調して成功したタイプだ。
逆に食品香料は心理的なハードルが高く、新しい試みはなかなか受けれられない保守的な世界。
私は小さい頃、チャイニーズレストランで初めてジャスミンティーを飲んだ時、「まるで化粧水のよう!」に感じてウェーとなったし、
ハンドクリームのついた手でにぎったおにぎりなんて、今でも食べられないと思う。
しかし最近では、フレーバーの世界にもフレグランス的な香りが進出してきている。フランスのパティシエやショコラテエはフローラルな香りのスイーツを普通に作っていて、この背後にはパフューマーのアドバイスがあるに違いない。
イランイランのチョコレートとかアンバーの生クリームなんて、古い人間にはちょっと抵抗があるが、フレーバーとフレグランスの世界は今ではクロスオーバーが当たり前のようだ。
新しいことに挑戦するっていいと思う。
でも、ただ「新しいから」「流行だから」というだけで、マーケットに媚びたパッションのない作品は駄作。
大きなブランドなら駄作もそれなりに売れるけど、ダメなものを出したらニッチブランドには命取り。
ニッチがニッチであるためには、ブランドとして軸がぶれないようにしなければ、大波にすり潰され消えるのみ。