パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

都会のジャスミン

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都会のジャスミン

 

こんなビル街の真ん中に、半分野生化したようなジャスミンが、今まさに咲き始めている。

 

これはハゴロモジャスミン。香料を取るジャスミンとは違う種類だが、やはりジャスミンの匂いがする。つぼみは濃いめのピンク色だが、開くと白い小さな花が、根元から上に順にびっしりと咲いていく。

 

ジャスミンの匂いの成分骨格は、「ベンアセ」(Benzyl acetate) や「シスジャスモン」(cis-Jasmon)e、「インドール」(indol)などである。

このインドールという成分は、ごく薄い状態だと白い花の広がりと甘さを引き立てるが、濃くなると動物の糞臭に感じられる。同じように、咲きたての花は爽やかでグリーン感さえあるが、枯れかけて茶色くなってくる頃は、少しアニマリックになる。

 

ハゴロモジャスミンはとても丈夫。昔、鉢植えを買って、庭に植えて放置しておいたら、一面にはびこって、花時は真っ白な絨毯(じゅうたん)のようだった。部屋からの眺めは美しいが、日中はハチが大挙して押し寄せるので、危なくて庭に出られなくなってしまった。

夜、庭が闇に落ちると、白い花はぼんやりと浮かびあがり、重厚で広がりのある甘い香りが澱むように漂う。サンダルをはいて外に出れば心はかき乱され、なんだかわけもなく悲しくなってしまったりした。

 

ジャスミンの漢名は「ソケイ」(素馨)という。中国の傾国(けいこく)の美女の名前だ。この匂いはたしかに、国を乱す女性の名にふさわしい。


子供のころ、中華料理店でその名に魅かれて初トライしたジャスミンティーは、化粧水を飲んだかのようなキモチ悪さで、「ううっまずい!」とばかりに口からダーッと出してしまった。慣れてくるにつれおいしく感じるようになった。

 

しかし、このジャスミンティーのジャスミンが、「マツリカ」(茉莉花)という別の花だと知ったのは大人になってからである。

 

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▶ 花事典  ジャスミン:モクセイ科 ソケイ属  学名:Jasminum grandiflorum

 

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