春から夏へ、梅、水仙、ミモザ、桜、藤、桐(まだまだたくさん)と、次々と咲く花の匂いを追いかけるのは忙しい。
バラは、通年手に入れることも可能だが、木の花などはごく短い季節だったりして、うっかりするとかぎそびれてしまい、また一年待たなくてはならない。
匂いのある花の香りは、骨格もキーノートも、どんな匂いかもわかっている。ひととおり処方もあるし作ってもいる。しかし記憶に刻んでいるつもりでも、一年ぶりに会うたび、やっぱりあらたな発見があってうれしい。
もう、梔子(クチナシ)の季節になっていた。
昔、庭に白く塗られた金属製の丸テーブルがあって、その上に小さな一重のくちなしの鉢を置いていた。緑色の蕾にらせんのように白い筋が入って、次第にふくらんでいく。咲いたばかりは真っ白で、少し肉厚の花弁の中心からは爽やかさと甘さの混じった香りが漂ってくる。そして時間とともに花は黄色みを帯び、アニマリックで枯れたような匂いがやってくる。
泰山木(タイサンボク)の様な10m以上もある木の上に咲く花と違って、クチナシは匂いをかぎやすい低木であり、香りは一般によく知られている。庭木としてもよく植えられるので、街のそこここで見かけることが多い。
クチナシの香気成分をざっくり言うと、ラクトンとフローラルとグリーンが合わさってできている。(クリーミーなラクトン、白い花を引き立てるインドール、cis-3系グリーンにチグリン酸)
でも、その間を細かく埋める少量成分や微量成分がたくさん入って、ナチュラルになり本物に近づいていく
ちょっと桃のようなフルーティを感じる人もいるかもしれない。ジャスミンやチュベローズにも似ているところもある。
これらをはっきりと区別するのは、その成分だけでなく配合割合にもよる。念入りに調整しなくてはならない。
時々既成品に見かけるのは、名前はガーデニアでもなんかはっきりしないのもあって、作った人は「本当のクチナシをかいだ事があるのだろうか?」と思うこともある。
もちろん、忠実に再現するだけがクリエイションではない。でも基本はしっかりと押さえつつ、やはり自分で匂いを確かめて、その喜びや新鮮さを感じなければ活き活きとした香りはできない。・・・自分というフィルターを通して、形にしなければ安もののコピー商品と同じ。