パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

フウラン、風蘭、富貴蘭、Vanda falcata

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フウラン、風蘭、富貴蘭、Vanda falcata

 
そのお客様から、「風蘭(ふうらん)」という、良い香りのするお花の話は以前から伺っていた。
 
「こんど花の咲く時期に持ってきますよ」とおっしゃって、6月のはじめにお預かりした時は、まだ緑の細い葉と、細いうどんのような白い根しかなかった。
 
 
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「どんな花が咲くのだろう?」
 
7月頃に開花すると聞いて心待ちにしていたのだけど、しばらく変化が見られない。水やりだけは毎日欠かさず、時々、変わったことはないかなと観察していた。
 
 
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6月27日、ふと気がつくと根元になにか軸のようなものが生えている。
 
「もしや・・・これは!?」
花芽ではないだろうか?
 
よくみれば、あちらにもこちらにも、いくつかが顔をだしている。いよいよ風蘭(フウラン)が咲くのかと期待が膨らむ。
 
 
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7月2日になった。
 
ぐんぐんと伸びてきた軸先には、くるりと巻いたつぼみがついている。
翌々朝には待望の一輪が花開いた。それが1枚目の写真である。
 
匂いをそっと吸ってみる。
「アレ?匂わない??」
 
1瞬、グリーンな香りが抜けたような気がしたが、顔を近づけても匂いが感じられない。スタッフも集まって香りを嗅ぐ。みな首をひねっている。
 
翌日には4~5輪が固まって咲いた。
 
朝のみずやりをしながら、スタッフと「やっぱり匂いがないよね」と言っていたのだけれど、
夕方5時ごろになって再度香りを確認すると、ジャスミンのような強い香りがする。
 
おお!
 
花の周囲5センチほどに、バニリン、マルトールの焼き菓子のような甘い香りの、ぼわんとしたドームがあって、その中からアニマリックなインドールが突き抜けるように匂っている。
 
 
 
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7月9日。小さな白い花が満開。
香りは3時ころからすでに強くなりはじめ、鉢全体が甘いグルマン調に包まれている。古い花ほど、早い時間から匂うようである。
 
 
はじめは茎がくるりと巻いた先につぼみがついていると思ったが、あのらせんは花の後ろの距(きょ)が丸まっていたのだった。
 
長く伸びた距には蜜があって、虫をひきよせるのだとか。この花が夕方から匂いが強くなる理由は、蛾媒花(ガバイカ)だからなのだろう。
 
 
昼の花たちは視覚で蝶を引き寄せ、闇の花は匂いで蛾を引き寄せる。
 
 
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お客様がここまで育てるのに20年かかったそうだ。
 
ちょうど満開時に先輩のパフューマーがアトリエにいらして、「ほう、これがフウランですか、話には聞いていたけど香りを見るのは初めてです」とおっしゃっていた。
 
 
 
もつれた糸かレエスのように華奢(きゃしゃ)で繊細。しかし美しい姿よりも香りで魅せるというところが、玄人好みの花である。
 
 
 
 
 
 
 
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