「私はここのザッハトルテだけが好きなのよ~」
パルファンサトリに長く居る、ヌシのようなマダムSは、しばしばウィーンに行く。
ザッハトルテといえば有名なチョコレートのケーキである。
手土産でひとつ持ってきてくれた。
マダムは、本来甘いものがあまり得意ではない。
しかし本場のザッハトルテだけはさっぱりしていて食べられるのだという。
マダム「ウィーンのホテルのサロンで食べた時はもっとしっとりしていたんだけど、たくさんおみやげ用に送って、家でも食べたら少しパサつくのよね。日持ちさせるために生地を固くしているのかしら」
マダムはモノシリなだけでなく口の回転も速い。
しかし私の目はケーキに吸い寄せられている。
『・・・うむ、うまそうだ。え?生クリームがないといまいち?ナニ、かまうもんか。』
マダムの講釈を聞きながし、いそいそとナイフを持って切り分ける。
上のチョコレートコーティングとスポンジの間には、アプリコットのジャムが入っていて、甘さと酸味のバランスがちょうどよい。
確かに見た目よりあっさりとしている。素朴だけど洗練されている。
こうしたチョコレートケーキにありがちな、ねっとりしたボリューミーな甘さではなく、ホールまるごと食べられそうである。
とはいえもう大人なのでそういうことはしないで、その日に居合わせたみんなで仲良く分けたのである。
このホテルのザッハトルテこそオリジナルだそうで、歴史は1832年から始まる。
箱もとっても味わいがあるし、中のカードや冊子は最高に可愛い♡
写真を撮る前に食べてしまうのはいつものことである。
今回もホールの状態までは冷静さを持っていたのだが、皿に供されたとたんに前後を忘れてぱくついてしまい、カラになってから「ああぅしまった・・・」と後悔したのであった。