新宿御苑の千駄ヶ谷門わきに、青い匂いのするブルーベルがたくさん咲いている。
木の花は近寄るだけでよいが、地面の花を嗅ぐのは大変だ。
犬のように這いつくばって、そのうつむいた花に鼻を近づける。
ヒヤシンスを薄くしたような、グリーンフレッシュな匂い。
小説、レベッカ(デュ・モーリア)には、ブルーベルについて鮮やかに書かれた一節がある。
英国の森とさまざまな花を回想する数ページの中に、それは登場する。
「絶対に家には持ち込ませないんだ、と彼は言う。ブルーベルは花瓶に入れると、たちまちしおれてぐったりしてしまう。一番いいのは、太陽が真上にくる十二時ごろ、林を散策して眺めることだ。まるで刺激性の野生の活液が茎の中をたっぷりと流れてでもいるような、いささかくせのある苦味のきいた匂いがたちこめている。ブルーベルを摘むのは蛮行で、マンダレーでは固く禁じている。・・・レベッカP62」
こんなふうに、森に咲くブルーベルの中に入れば、ひざまづかなくても青い新鮮な香りを胸いっぱいに吸えるのだろう。
ブルーベルも、イングリッシュ種と、スパニッシュ種があり、スパニッシュの方が繁殖力が強いそうだ。イギリスの森に広がるブルーべルにも、侵略戦争が起こっているらしい。
御苑のは残念ながらスペイン種。茎が直立しているし花が対生してついている。英国種の方が匂いが強い。
亜種のピンクと白花種も。 匂いは弱く少し粉っぽい。
初め、カンパニュラと混同したが、カンパニュラはホタルブクロの仲間で匂いもない。
ブルーベル キジカクシ科ヒヤシンス属 学名:Hyacinthoides. hispanica