沈香木の味?それは、六国五味(りっこくごみ)。
香道では、前に説明した沈香木(じんこくぼく)を使い、香炉で温めて香りを聞く(嗅ぐ)。
この朱の包みの中には、6つに分類された香包みが入っている。
どれもみな、木を焚くのだから、似たような匂いだ。
香水、パルファンは香りのバリエーションがものすごく広い。
例えば画材店に行って、絵の具のコーナーに立ってみる。
赤から黄色、青まで、中間色あわせたグラデーションで、とりどりの全色を揃えているような感じだ。
一方、香木は、例えば赤の中に異なる赤が何十色もあるように、狭い範囲の微妙な違いを聞きわける。
それを、特徴によって6種類に分類する、それが六国。
もともとは、木所(きどころ)と言って、産地によって名づけられたのが、品質によって分類するようになっても、そのまま名前が残ったようだ。
その品質の特徴を決めるのは、甘(あまい)、辛(からい・スパイシー)、酸(すっぱい)、苦(にがい)、鹹(しおからい)、の五つの味。五味(ごみ)で表現する。
香道は、武家の流れの志野流と、貴族の系譜の三条西御家流が現在の2大流派となっている。
流派によって、味覚分類が異なる。
17世紀には、この香りをイメージで表現する方法も試みられており、読むと面白いが、いざ香席で香を聞いても、判定にはさっぱり役に立たなかった。
「女のうち恨みたがるごとし」香りって何?
先生も、「それに左右されないで、ご自分で香りを覚えていかないと」と言っておられた。
だから、あんまり意味がないかもしれないが、参考までに、下の写真にそれぞれ由来の産地名と、その当時の香りの説明を書いてみる。
伽羅 キャラ
「そのさまやさしく位ありて、苦味を立るを上品とす。自然とたをやかにして優美なり、譬えば宮人の如し。」
やはり立ちがよく、長く続いて、正客(一番初めの客)からお詰(最後の客)までずっと香りが続く。ボリュームもあり、伸びがよい。
味は、伝統的には「辛」と表記されるが、「五味にたつ」といって、すべての味を備えているものがあり、「蘭奢待」という東大寺の有名な香木も、五味を備えていると称されている。
見た目はねっとりとした黒い色のもの、縞模様のものなどがある。
もともとベトナムを原産とするものだったと言われる。
梵語の黒いと言う意味のガーラから名前がついた。
羅国 ラコク
「 自然と匂いするなり、白檀の匂いありては、多くは苦を主る。譬えば、武士の如し。」
羅国はシャム、タイのことで、味は甘いと分類される。
真南蛮 マナバン
「味甘を主るもの多し、銀葉に油多くいづること真那蛮のしるしとす、然れども外の例にも有るなり、真那蛮の品は伽羅をはじめ、その餘の列より誠にいやしく、譬えば百姓の如し。」
まことに賤しく、とは、ちょっと、ひどい言われ方だと思うが、香りは甘さが強くてわかりやすい。
私は嫌いではなかった。カステラの木の箱のような匂いだと思った。
名前の由来は、インドのマラバル海岸地方だと言う。
御家流では、「酸」と書いてある本と、「しおからい」と書いてある本と両方ある。
真那伽、マナカ
「 匂ひ軽く艶なり。早く香のうするを上品とす、香に曲ありて、譬えば、女のうち恨みたるが如し。」
香木の中では、「無味」と言われる。ちょっと、わかりにくい。
名前の由来は、マレー半島のマラッカ。
マゼランが、西回り世界周航の途中で戦死した地だ。
(伽羅、羅国、真南蛮、真那伽の4種はAQUILARIA属のAGALLOCHA,MALACCENSIS)
左曽羅、サソラ
「匂い冷かにして酸味あり上品は焚出しに、伽羅まがう聞あり。
しかれども自然と軽くして、余香に替われり。其さま僧のごとし。」
白檀に似ていて、木片を見ただけでも分かりやすいのだが、先生はそれを
「材木屋」と言って、「見た目で判断してはいけません」とおっしゃったものだ。。
名の由来はサッソールという地名らしいが、明らかにはなっていない。
辛いとも、しおからいとも。
(この沈香は、植物学的分類では、PTEROCARPUS属の木に定着する。上の4つとは違う)
寸門多羅、スモタラ
「前後に自然と酸きことを主る、伽羅にまごう、然れども位薄くして賤しきなり、其の品、 譬えば、地下人の衣冠を着たるが如し。」
スモタラも、 ちょっとわかりにくくて、焚き出しの初めはとても良いようなのだが、最後の方になると匂いが続かないような感じがする。
座った席次によっても、わかったりわからなかったり。
名前はスマトラから来ているようだ。
(この沈香は、植物学的分類では、GONISLYLUS 属の木に定着する。他の4つとは違う)
伽羅など、本当はもっと黒ずんだものもあるのだが、写真は少し、明るく取れてしまったようだ。
どれを見ても同じような木なのに、こんな風に細かい匂いの特徴で判別する。
これは「あてもの」「判じ物」ではなくて、貴重な香木をより大切に楽しんで聞く、というためのものだと思う。