土曜日の夕方、スクール生のMさんが、家から夜香木(ヤコウボク)を切ってきてくれた。
家には白い花を中心にした庭があり、香料植物も多いとか。お母様の丹精だそうである。
この夜香木の株が大きくなり、かなり生い茂っていてるそうで、伸びた枝に次々と花が咲くという。まだまだ長い時期を楽しめるので、未開花の枝を2本、切ってくれたものである。生徒さんから教わる事も多い。
枝にはほっそりとしたつぼみがたくさんついて姿がよい。線香花火のようだ。
夜香木(ヤコウボク)は別名ナイトジャスミンとも呼ばれ、その名のとおり夜になると芳香の強い花を咲かせる。咲いた花は明け方には閉じて、夜になって再び開く。それを2~3回繰り返すともう開いたままになり、翌日には落ちてしまう。適温であれば通年開花するそうだが、日本ではやはり夏の花である。
私もうっかり間違えそうになったが、夜香木と夜来香(イェイライシャン)とは別の植物。2002年頃だったと思うが、フレグランススクールの遠足で「夢の島植物園」に行った時に夜来香の鉢を見た。昼間だったので、花はしぼんでしまっていたが、黄色っぽかった記憶がある。
夜来香(イエイライシャン)の話しは置いといて、夜香木に戻る。
一度も咲いていないツボミは翡翠(ひすい)色で、まだ、固く青い。口がしっかりと閉まっている。Mさんの家では5時頃には咲きはじめたと思うということだったが、最初の日は始まりが遅いのかもしれない。
咲くところを見るのは初めてなので、開花を心待ちにしていると、6時を回ったころだろうか。Mさんが「先生、このツボミの先がほんの少し開いてきたみたいです」という。
どれどれ?とよく見ると、ツボミの中央に縦十文字にスジが入っている。そうして枝の先々を観察して見ると、いくつかのツボミのスジの切れ込みが徐々に深くなり、やがてぽっかりと一輪の口が開いた。
近寄って匂いを嗅いで見ると、一瞬甘いジャスミン調の香りがしたような気がしたのだが、2度嗅ぐとその香りはすっかり消えてしまっていて、もしかして幻覚?とか思う。
もっとたくさん咲かないと香りがわからないのだろうか?とか話しているうちに、咲きはじめた4~5輪が、数えられないくらい増えてくると、やがて確かにグリーンの・・・さしずめ未熟なバナナのような青い匂いがしてくる。
十文字の切れ込みと思ったが、咲いてみると花びらは4枚ではなく5枚であった。
「おうちの花はもっと甘い感じがしましたが、この枝の花はまだ若いから、甘さが少ないのでしょうか?」とMさん。あるいは、ひとつの株から咲いた花でも、それぞれに香りが異なる事は他の植物でもある事なので、そのことについても話が盛り上がる。
教室が終わった後も一人残って変化を見ていると、7時頃には半分ほどが満開を迎え、あたりはフェニルアセトアルデヒド(phenylacetaldehyde)のような強いグリーンの、ややねちっこいハニーの香りに包まれてきた。
花は小さく開花しても5ミリくらい。キンモクセイ程度の大きさ。中には6枚の花びらの個体も発見。
一応、満開までを見たのでアトリエに夜香木を残し、その日は帰宅する事にした。
日曜日の朝、アトリエに来てみると花はすべて閉じているのに、部屋の中には昨日のグリーンハニーな香りが立ちこめている。濃密。
この日と、翌日も台風がくるというので2夜とも早く帰宅してしまい、開花を観察しそびれてしまった。しかし、徐々に開花時間は早まっているようではある。
この夜、Mさんから「家の夜香木の香りが少し違い、湿度が高いせいかバニラのような濃厚で甘い香りがする、今までにないくらい白い香りがします」とお知らせが来た。「ああ、もうちょっと待っていればよかったなあ。」と後悔する。
火曜日、開花時間はだいぶ早くなって、5時には半分以上が開いている。開きっぱなしの花の匂いはほぼ失われてしまっており、やはりあの台風の夜に最も成熟した香りがしていたのだろう。花の色は白っぽくなっている。
水曜日の朝、アトリエに来てみると、花は満開のまま。もう部屋に香りはあまり残っていない。そっと揺するとパラパラと花は落ちてしまった。
昼でももう花はつぼまない。色も少し黄色くなってきたようだ。花も熟れるのだと改めて思う。
落ちた花も拾い集めて見るときれいである。弱くなったといっても、これだけまとまるとやはり強いにおいがする。
花は終わってしまったが、丈夫な植物なので挿し木も簡単だと聞いた。次は水の中で根っこが出てくるのを楽しみにしている。
➤夜香木(ヤコウボク)、ナイトジャスミン/学名:Cestrum nocturnum ナス科
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