お花屋さんにミモザが入ると、「ああやっと春が来たんだな」と毎年思う。
小さな黄色い毬(まり)の様な花が房状につく。街路樹より早く、切り花として出回る春の花。
これは、葉の切れ込みが少ない種類のミモザだ。葉が三角なので三角アカシアという。
花が多いためか、いつも水揚げがうまくいかなくてなかなか長く持たない。
香りは木に咲いているほうがずっといい匂いがする。ほんのり粉っぽい、甘くさわやかな香りだ。
活け花は季節の先取りでいいものだが、やはり木の花が今から楽しみだ。
桜のころ咲くこの花は、あどけない感じがして、
明るい緑の葉と黄色のコントラストが幸せを運んでくれそうな気がする。
代々木駅東口からドコモの前を通って紀伊国屋書店に抜ける線路沿いは、
数年前までミモザの並木道だった。
夏の照り返しと乾燥、ビル風などの条件でうまく育たなかったのか、枯れてしまったのだろう。
今はほんの数本が残るのみ。
天然のミモザの香料もある。
お豆っぽい、モソモソっとしたところのある甘い人懐っこい感じの香り。
粉っぽさ(α-Ionone)がもっとも多く、そこにハニー、ローズ、グリーンの要素が見え隠れする。
ミツバチは黄色の花によく集まるというが、植物の世界で黄色の花は多い。
また、花びらの色は違っても、蜜のある花芯はたいがい黄色。
黄色の花が多いからミツバチが黄色に誘われていくようになったのか、
ミツバチが好きだから花は黄色くなったのか、
どっちの理由が先なんだろう?
黄色い花をみるといつも思う。
昆虫は見える色の幅が少なく、人間が見ている色とは違う色を感じているそうだ。
その代わり紫外線をとらえることができるという。
蜜のありかを知っているのは、この紫外線が見えるから。
人との会話は、赤は赤、黄色は黄色と、同じ感覚であることを前提に話しているが、
私の見ている色と、あなたの見ている色が一緒なのかどうかはわからない。
その先へ一歩進めば、「われ思う故に我あり」、哲学の世界だ。
▶ 植物事典 ミモザ マメ科 アカシア属 学名 acacia baileyana