パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

サンザシ(山査子)Crataegus cuneata

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通勤途中のエキナカの、いつもの週代わり露店ではお花屋さんの出店が始まったばかり。朝、店員さんが忙しそうに花をバケツに入れて並べている。
 
屋台の花はユリやトルコキキョウなど、ごく普通の花が飾ってあって、あまり興(きょう)をそそられなかったのだが、バックヤードには、まだ届いたばかりの荷解き前の束が無造作に置いてある。その包みのてっぺんから、ちらりと赤い実がのぞいていた。
 
『いいなあ、あれ。よさそうな気がする・・・』興味深々(きょうみしんしん)。
 
 
 
「お店、これからですか?」
と聞くと、若いスタッフさんが
「いえ、もう大丈夫ですよ、売っています!」
 
「後ろの包みは何かしら?あの赤い実の。鈴薔薇(スズバラ)?」
「あ、これはサンザシ(山査子)の実ですよ」
 
そういって、包みを解いて見せてくれた。サンザシはバラ科の植物であるので薔薇の実に似ているのもうなずける。
 
わあ、なんか晩秋にふさわしい感じ。。。
「これ、とても気に入ったけど、まだ水揚げ前でしょう?買えます?」
「あ、いいですよ、ありがとうございます!」
 
ということで商談成立、サンザシの枝を持っていそいそとアトリエに赴(おもむ)く。
 
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少し水揚げをした後、水の中で枝もとを切って、白い花器にざっと放り込む。アトリエの白い壁の前に置くととても映(は)える。思った通りでとてもウレシイ。
 
枯れた枝に赤い実がポツリポツリとついた姿が、冬木立を思わせていかにも寒そうである。寒いのは嫌いであるが、暖かい部屋にいて、寒い郊外の落葉樹林を歩く自分を思い描くのはとても贅沢な気分だ。
 
 
 
サンザシ(山査子)、西洋サンザシは英名をホーソン(Hawthorn)、ドイツ語ではハーゲドルン(Hagedorn)とも言う。棘(とげ)のあるサンザシの生垣は害獣を守るために畑の周りに廻(めぐ)らされた。語源のHagは茨(いばら)の藪(やぶ)という意味だそうである。
 
また、サンザシは民間療法における優(すぐ)れた薬草である。薬草に神話がつきものなように、サンザシにも魔法や神秘がつきまとう。
 
アーサー王伝説(かケルトの神話)に出てくる魔術師マーリン(メルリン)は、美しい少女ニニブ(ニニアネ)にぞっこんになり我がものにしようとするが、逆に少女の呪縛によりサンザシの木の下に封印される。ミイラ取りがミイラ。
 
 
かと思えば、サンザシの木の下には純愛があるようにも思える。
『しかしいまどき本当の純愛なんてあるのだろうか?物語の中にだけ生息するのかもしれない。』
大人になって世間ずれするのは寂しいものとひとりごちる。
 
などなど、一本のサンザシの枝を眺めては妄想(もうそう)を広げるのであった。
 
 
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枯れたように見えた枝に新芽が出て、ちっちゃい葉が開けば春を想う。サンザシの木の下で見上げれば、天蓋(てんがい)は雲のように、5月の白い花で覆われるだろう。牧歌的ロマンにあふれる樹木。
 
 
サンザシ,山査子,山樝子,学名, Crataegus cuneata,ホーソン,
 
 
 
 
 
 
 
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