インタビュー ジェンダーと香水 gender and perfumery
Q:香水に性別はあるのでしょうか?
A:私は特に男性用、女性用と分ける必要はないと考えています。
例えば私のコレクションの中で、「苔清水(こけしみず)」や「ひょうげ(旧織部)」などは情景を表した香りで、特に性別を意識しないで作ったものです。
また「睡蓮(すいれん)」といった花の名前の香水にしても、花そのものというよりは、水辺で一日の移ろいを過ごす風景を表していますので、これらの「情景描写の香り」はどちらのためということもありません。
しかしまた、時には香りを作るときに、つける人物像を想定することはあります。
その象徴が男性だったり、女性だったりすることはありますが、結果的に買われる方の比率が男女同じくらいという香水も多いのです。
イリスオムとシルクイリスはその代表です。
先に生まれたのはシルクイリスです。
長い間、ミューズとして私の心にいた女性をイメージして作りました。
そのモデルは、高校生の時に見た白黒の映画雑誌に写っていた女優さんで、確かフランスの方だったと思います。
白いシルクのシャツに、パールのネックレスをつけただけのその人はシンプルな装いがとてもエレガント。
大人になったらこんな風になりたい...という気品がありました。
この香りは強く遠くまで届くというよりは、淡くいつまでも体を覆うように香ります。
白い肌が月の光で輝くようにというイメージで処方しました。
一方、男性にはもっと力強い芯とくっきりとした輪郭をもたせた香りがふさわしいと思い、続いて作ったのがイリスオムです。
トップから長く続くシトラスと、鋼のように強いアンバーがコアになってわかりやすくなりました。
しかしこれらは男女両方に支持されています。
結局のところ、お客様は自分たちの好きな香りを買うということでしょうか。
ひと昔前の日本では、青は男の色、赤は女の色、といったような古典的な考えがあり、香水についてもはっきりと男性用、女性用と分けたほうが売りやすく、買うほうも選びやすい、という傾向があったようです。
しかし最近では、年配の男性でもフローラル系を好んだり、若い男性がグルマン系やフルーティな可愛い香りをつけたりなど、香水文化が浅い日本ではより自由かもしれませんね。
男女が共有できる香水を、初期のころはシェアフレグランス(とかユニセックス)と言いましたが、最近ではジェンダーフリーとかジェンダーレス(この用語については諸所意見があるようですが)の香水と呼ばれるようになりました。
香りが中性的というより、つける側の意識に、徐々に垣根がなくなってきたように感じます。