夜道につづく常緑の生け垣は、暗い葉の海。
山茶花(さざんか)の花が、白い波頭のように次々と、ぼんやりと浮かんでいる。思い思いの、いくつもの表情で。かたくななつぼみ、横顔、または蕊(しべ)もあらわに。
足を止め、その頤(おとがい)に手をかけて、一輪の香りを吸う。闇の中でいっそう密やかに匂う、その香りはオリエンタルグリーン、ほろ苦さのあるお茶の香り。
ツバキの美しさに険(けん)があるとすれば、サザンカは野趣の残る花。
しどけなく散る姿は、若く潔癖な時にはわからない情味がある。
冬が来て、またひとつ、わたしは年を経る。