パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

香水の非常識 Bad manners

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神宮前のあるカフェで、もとアシスタントのR子ちゃんと食事をした。

4人掛けのソファ席に2人で座った。店はまだすいている。
席は顔のあたりまでの高さの壁で仕切られていて、私たちが席に着いた時、壁の向こうは誰も座っていなかった。

スパークリングワインを乾杯して前菜を食べ始めた頃、突然、強いニオイが漂ってくる。
二人で顔を見合わせて、「なにこれ・・」と絶句。

ウォータリーなグリーンが、あたかも霧状になって目に見えるかくらいの強さで拡散し、下の方に鋭いアニマリックな臭いが流れ込んでくる。

まるで掃除の行き届かないトイレに、安っぽい芳香剤を撒いて混ざったかのような、本当に耐えがたい悪臭である。

もはや香水をつけすぎた人が発するレベルではない。


『これはなんだ、どこから来るんだろう』
思わずナプキンで鼻と口元を覆う。
連れのR子ちゃんは、
「この店にはよく来ますが、ここのトイレはこんなニオイじゃありませんよ」
という。

見渡すといつの間にか隣のボックスにカップルが座っている。
どうもその男性のほうから臭って来るようである。

私たちは次の皿が来るまで、ヒソヒソとその香りをディスクリプションしながら我慢していたが、ついに堪(たま)らず店の人に頼んで席を変えてもらった。

 

あまりネガティブな話題は書きたくないのだが、本当にひどい目に遭った。
こうゆう人がいるから、「香害(こうがい)」といって問題になったり、香水嫌いの人が出てきたりするのだ、と腹立たしく思う。

寿司屋のカウンターで、香水を過度につけた女性が隣に来た時も非常に不愉快である。

香水が悪いわけではない。
使い方が適正ではない人がいることが問題なのだ。


やれやれと新しい席で食事を続け、最後のデザートを食べる頃になって、またあの香りが通り抜けた。

どうも件の男性が化粧室に行くために前を通り過ぎた模様。
しばらくすると、ニオイを振り撒きながら、やはりあの彼が席に戻っていくのが見えた。

 

同じ匂いを嗅ぎ続けているとだんだん自分では感度が下がり、つけすぎることがある。
一緒にいる彼女は平気なんだろうか?すでに麻痺している?

しかし尋常ではないつけ方であるし、香水としてのバランスが酷(ひど)い。
おそらく、この方は日常的に洋服の上から繰り返し付け直しているのではなかろうか。

香水のトップノート、ミドルノートが消えた後も残る、アニマリックなラストノート(残り香)。
その上にさらに何回も香りがかぶさって、ラストのアニマルノートが凝縮し、不快臭に発展したのではないかと推測する。


仮に肌の上なら入浴のつど洗い流されるので、ラストノート(残香)が濃縮されることはあまりないが、ジャケットはクリーニング回数が少ないだろう。
それに、繊維に残った香りはなかなか取れないものだ。

 

本人は香りに鈍感なっているので、着衣の上からさらにたっぷりと香水を振りかける。

結果、トップノートが盛大に拡散し、着衣に蓄積したアニマルノートとあいまって、バランスの崩れた香りになるのである。

 

ウォータリーなグリーンも、ほどよい強さなら爽やかだし、アニマルも僅かであればセクシーだ。
外見は若い爽やかな好青年であるだけに、間違った香りの使い方にはまったく残念な感じ。

 

がんばって魅力的に見せようとするあまり「逆効果」ということがないように、香水のつけすぎには気を付けたいものだ。

「あれ?いい匂いだけど、もうちょっと近くによって香りを嗅いでみたい」と思うくらいのほうが効果的なのである。

 

 

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