今日は冷たい雨が降っている。
池のほとりにはだれもおらず、次々とちいさな輪が広がっては消える様子を、ひとり飽かず眺めている。
「するべき」「せねばならない」「やめるべき」「してはならない」
自分の言葉が、忙しい心に落ちるのを、この波紋が身代わりになって消してくれる。いつまでもここから去り難いのに、やがて雨は小やみになる。
「人ひとりでできることなんか、たかがしれてる。」
そうひとりごちて、水辺を離れ歩き始める。また、細かい雨がしっとりと降ってくる。
大きな木を見上げてカメラを構えれば、肩に挟んだ傘の柄が邪魔になる。
ふと横をみれば、同じように傘を持て余してる人がいる。
「ハクモクレン仰いでみれば撮りかねて思わずたたむ赤い傘。」