パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

京都、糺(ただす)の森から下鴨神社 KYOTO②

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京都の宿についたのはもう3時過ぎ。パラパラと雨が降り始めた。『またか・・・』と軽くがっかりする。
 
10月の京都催事(さいじ)のときも台風が直撃し、一晩中、携帯の警報が鳴りやまなかったほどだ。ホテル缶詰。
 
この日も薄暗くなりつつある空を見上げ、「外出を見合わせようか」と一瞬迷う。しかし、今回の短い京都滞在、「一刻も無駄には出来ぬ」と当初の目的地のひとつ、「糺(ただす)の森」へと向かうことにした。
 
修学旅行や、学生時代に部活の友人たちと来て以来、京都はいつも仕事の通過点。小説の舞台としてはなじみのある地名や名所も、大人になってゆっくりと訪れたことはなく、市内のどのあたりに位置するかは実はぼんやりとしかわかっていない。
 
それなら前もって新幹線の中ででも、ちょっとは調べたらいいものなのに、どっぷりと時代小説に溺れ2時間を使ってしまう。読んだのはなぜか志水辰夫の「つばくろ越え」。古本屋で、字が大きかったから読みやすかったのよねえ。でも江戸の飛脚(ひきゃく)ものの話では京都の地理には役に立たず...。
 
 
 
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とりあえず京都駅で買った、店員さんおすすめの地図は、いざ開いたらなぜか英語であった。『Tadasu mori shrine・・・Simokamo-Jinja shrine・・・』 
 
さとり 「うわっ、読みにくい」
与一  「日本語も書いてありやすよ。ちっせえけど」
 
ローマ字表記では、瞬間的に入ってこないのである。
また、グーグルでは、自分が京都全図のどこにいるのかが私には俯瞰(ふかん)できないので、なんとなく使いたくない。アナログ時計と同じ、古い人間なのだ。
 
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地下鉄を乗り継ぎ、出町柳(demachiyanagi)に到着したのはもう4時。地図をみながら「糺の森(ただすのもり)」を目指す。
ここについて知っているのは、奥に下鴨(しもがも)神社があるという程度で、ほとんど前知識はない。
 
右手に傘、左手にバッグ、首からカメラ、足元は濡れて歩き辛い。「やはりここは天気のよい昼間に来るべきではなかったか?」という思いもよぎる。
 
が、「さとりさんは絶対気に入りますよ」という知人のお勧めと、この森の名前に、なにやら「私はここへ来るべき」との使命感をもったのである。決めたからには行かねばならぬのが習い性。
 
 
「糺(ただ)す」というのは、罪や真偽・事実などを問い調べること。太古の森に抱かれて、今までのおのれの道を振り返り、反省でもしてみようか、という殊勝(しゅしょう)な気分にあったのは間違いない。
 
 
 
与一『さとりさまが反省とは、、、それで雨でもふったんでやしょう・・・』
久しぶりに連れてきた与一(人形)から、すかさずつっ込みがはいる。
 
 
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地下鉄を出て、大通りから森の始まりに足を踏み入れた途端、空気が変わってくるのがわかる。澱(よど)んだものが、ガラスのように透明になる。そして少し焚火(たきび)くさい、スモーキーなグレイと、水の匂いや、緑の香りが交互にやってくる。
 
 
 
 
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途中に、「旧三井家下鴨別邸」との看板が。『雨やどりでもしていこうかな。そういえば昔、思いついて立ち寄った池之端の「旧岩崎邸」も、こんな小雨の夕方だったっけ。』
 
日没まで時間がないのに寄り道。
建物は、素敵と言えば素敵なのだが、全体のバランスがなんとなく継ぎ足しな感じ。望楼(ぼうろう)と中3階はいらないんじゃないか?
 
磨き上げられた階段や、格子、建具(たてぐ)とかはすばらしい。もう閉館間近だったので、そそくさと一巡りして気が付いたら庭に出ていた。端の方から雨戸が立てかけられていくのが見える。
 
モノトーンの景色はいよいよ寂し気で、外から見る家の灯りがいっそう暖かい。
 
 
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元の道に戻ればすでに4時半をすぎ、暗くなる前にお社(やしろ)まで到着するかやや不安。
 
まっすぐの道を進むと、雨も小やみになってきた。しっとりと濡れた石畳に、終わりかけの紅葉がはらはらと落ちる。ぼんやりと点(つ)く光りに『風情があるなあ・・・』と、京の色気に酔う私。
 
 
「十月に賀茂にまうでたりしに、ほかのもみぢはみな散りたるに、中の御社のが、まだ散らでありしに、」赤染衛門
 
他の場所のもみじは散っているのに、下鴨神社はまだ10月でも残っている、と歌にある。
 
 
昔は10月でもすでに遅い紅葉だった。12月までいろどりをたもっている今は、やはり秋から冬が暖かくなっているのだろう。
 
 
 
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糺の森」には、樹齢200年から600年の樹が600本もあるというが、左右の木立がほとんどシルエットとなり、森は闇に溶けつつある。中に入ることはためらわれ、下鴨神社にむかってまっすぐの参道をつっ切るだけになる。ひたすら、もくもくと砂利道を踏み進み、手水で手を清める。まばらな人影。
 
心が静まるとか、浄化されるとかそういうことではなくて、、、今日はあえてそんな風に思わない。
じっとしていると考えが堂々巡りになってしまうから、せいぜい歩いて、体の血を巡らせるほうがよいのだ。
 
 
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朱色に塗られた雅(みやび)な門。解説によると、これが楼門(ろうもん)で、ここから下鴨神社が始まるということを知った。
 
門を通るとき、鳥居をくぐるときに、立ち止まりごく自然に頭を下げる人々がいる。その一連のなめらかなしぐさは、仰々しい信仰とも異なり、身についた一部として感じられ、その方の暮らしぶりを美しいと思える。
 
 
 
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楼門、舞殿(まいでん)、中門と進むにつれ、「ああ、これが葵祭(あおいまつり)の」とようやく思い至る。舞人が蝶のように白い装束を翻(ひるがえ)す光景を浮かべながら奥へすすみ、言社(ことしゃ)につく頃はすっかり暮れて、まもなく閉門の声もかかる。急いで自分の干支(えと)にお参りをして後にしたのである。
 
暗い中、いまと同じ道のりを歩くかと思うとちょっとぐったり。しかし、知らぬ道は遠く感じるもの。帰りは思いのほか早く、もとの出町柳駅に到着する。そこから地下鉄で四条河原町へ出てまた歩き回る。雨が再び強くなる。
 
 
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あてもなく足を運べば、古い印刷屋さんや箒(ほうき)店などに行きあたる。かと思えば、モダンなインテリア雑貨のお店とかに出会う。ただ歩くだけで楽しいのは、パリと同じ。
 
 
 
つらつらと思い出し「糺の森はまた来たい、ゆっくりと」そう思って後でどんなところか調べてみると、ものすごく魅力的なところだ。やっぱりおすすめは間違いなかった。
 
 
 
 
そして、後先になってしまうが、この日の続きが
「月はおぼろに東山 KYOTO①」に戻るわけである。
 
翌日はまた、とりあえず行ってみたい場所があって、たくさん歩く予定。
 
 
 
 
 

 

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