アトリエと新宿御苑は徒歩5分、散歩にちょうどよい距離にある。
「散歩の効能」というと大げさだけれど、確かに新宿御苑を歩くのは心身によい。
朝、軽くアトリエで仕事をした後、9時の開園に合わせて出発、1時間くらい御苑の中を散歩する。
カメラを持って、時々写真を取りながら立ちどまるので、歩きっぱなしということはない。
でも、次の目的を思いついてそちらに向かうときは、いつも速歩。
早く見たくて仕方がないから。
カメラを構えて、梢(こずえ)を撮るときはちょっと腰に負担がかかって大変だ。
でも、地面に這って撮るのも、それはそれで後で泥だらけだったりして。
つい夢中になると、サロンの始業に間に合わなくなるので焦ってしまう。
ラクウショウの湿地は、地理的にはアトリエのすぐの場所。
でもアトリエのすぐそばにある代々木の門は閉まっていて、出口は遠い。
ここで時間切れを迎えると、千駄ヶ谷門まで一度戻らなくてはならず、そんな時も超急ぎ足で歩いて帰るのだった。
一つに、まずあたりまえだけど、足が丈夫になって健康になる。
駅の階段を上っても息切れしなくなった。
御苑は低い池の周りや、高い芝生のあたりなど、なだらかな傾斜がある。
きままに歩いているようだが、知らずと上り下りを繰り返している。
また、土の道だけでなく、芝生や砂利道などがあって、歩きにくい。
不安定なところを歩くのは、足や腰のいろいろな筋肉を使うので、鍛えられるようだ。
私はベスト体重から5kgはあっという間に増える。
仕事に余裕が出て、時間があると太ってしまう。。。
御苑を歩くようになってから痩せはじめ、ただいまベスト体重よりやや軽い。
どうしても痩せたい、というわけではないが、 洋服のサイズが一つ下がると、着れる服が増える。
二つ目の、これも、効用かも。
三つ、写真がたくさん溜まる。
整理は大変だけど、植物の姿を記録するのは楽しい。
いきおい、ブログには連日新宿御苑のことばかり。
でもこの2カ月あまり、楽しいと思えることがそれしか書けなかったから・・・。
四つ、一番大切なのは、心の健康。
新宿御苑は、災害時の広域避難場所になっているが、物理的な、というより精神面でも私の心の避難場所のひとつだ。
ほんの小さな森だけど、私にとってのサンクチュアリ。
存在には感謝している。
去年までは、花の時期にときどき訪れる程度だったが、今年こそ運動のためにと、正月からできるだけ御苑を歩くことにした。
そうこうしているうちに、3月11日の大震災が来たのだった。
日本中がそうであったように、震災後は、毎日哀しいニュースで胸がいっぱいになってしまい、気持ちが沈んだ。
慢性的な緊張や肩こりなどが、この時期いっそう強くなったのもストレスのせいだ。
不安な夜を引きずって、早朝に、心がふさいだまま目が覚める日が続く。
ベッドの中で、意識がはっきりとするにつれて湧く無力感、喪失感。
そんな朝は思い切って早く起きてしまい、早く用を済ませて外へ出る。
新宿御苑に一歩入れば、森が黙って受け止めてくれる。
今年の3月は特に寒かったし、桜も遅かった。
まだか、まだかと心待ちに蕾を観察する日々。
ちっとも変化が見えなくてがっかりの日もあったけれど、わずかな春の兆しがひとつ、ふたつと見つかっていく。
探し物をしている間は、それに夢中になっていられる。
そうして、御苑中が満開の桜でいっぱいになったときは、早く北の方でも咲いて欲しいと願った。
祈るくらいしかできない自分に失望しながらも。
あのころ、「3ヶ月後、1年後の日本はどうなっているのだろう?
どんなふうに、私たちは感じているのだろう」と思ったものだった。
今は、バラが盛りを迎え、寒かった当時はしだいに遠ざかっていく。
まだ解決しないことの方が多いし、もっと大変な状況も、これから、半年後、と表れてくるだろう。
被災地から遠いところにいる自分が、頑張って下さいなんて言えない。
でもひとりひとり、投げやりにならずに「個の力」をつけていくことが、全体の力を蓄えることになるのだと思う。
木々は何にも言わない。
花も、声に出して呼んだりはしない。
そこにいる、それだけで哀しみを吸い取ってくれる。
タイムリミットが迫って、御苑を去るのが辛い時もあったけど。
また明日、元気に歩いてまたここに来ようと一日頑張れるのだった。