パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

香木(こうぼく)と練香(ねりこう)

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ひと口に「香」といっても、香道で使うのは沈香木(じんこうぼく)で、茶道で使うのは練香(ねりこう)と白檀(びゃくだん)である。源氏物語の薫物合わせ(たきものあわせ)で使われたのは練香のほうだ。

 

 

香木は沈水香木(じんすいこうぼく)、略して沈香(じんこう)ともよぶ。
はじめから、こういう木がはえているわけではない。

見た目は枯れた木のようである。
比重が大きく、水に沈むので、沈水という。

 

松の木に、松脂(まつやに)がにじみ出ているのを見たことがあると思う。
木は、傷つけられると身を守るために樹脂を分泌する。

沈香の元は、東南アジアに生息する、ジンチョウゲ科アキレア属の植物である。

台風などで樹幹に傷がついたり、虫に食われるとか、病気にかかったり、土の中に埋もれたりしたとき、そこに樹脂がにじみ出て、バクテリアがコロニーを作る。
人が、沈香を得るために、意図的に傷をつけることもある。

 

そんな風にしてできるものだから、熱帯のジャングルのたくさんの木の中でも、樹脂を持っている木はほんの少ししかないし、それがある程度の大きさになるのには、さらに何十年もかかる。

樹脂化した部分は重く、固く、密で、黒かったり、縞模様だったりする。
それによって匂いも少しづつ変わり、良いものはさらに希少になる。
古来から、香木はとても高価なものだった。

伽羅(きゃら)は、沈香木の中で最高のものである。
下世話な話だが、1gで1万円以上するので、金よりも高い。

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六国五味(りっこくごみ)といって、昔は木所(きどころ・木の産地)である六つの国からつけられたが、今は香りの特徴(五味)で分類され、往時の国の名前がその名残りとなっている。

 

最初の香包みの写真は、その、六国で分けてあるもの。

伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真南蛮(まなばん)、真南伽(まなか)、左曽羅(さそら)、寸門多羅(すもたら)とある。

これは大きな香木を包むものだが、実際に香席で使う小さな木片用はとても雅(みやび)なもので、いろいろな趣向が凝らされているものがある。
紅白梅図で有名な尾形光琳も、香包みのためにデザインを書いている。

 

伽羅の香木のすぐ下に、ほんの小片が見える。
これは、香炉の上に乗せて香りを聞くために細く切ったもの。
(ちょっと小さくし過ぎた。固いので、上手に切るのも難しい。)


貴重なものだから、馬尾蚊足(ばびふんそく)、馬の尻尾か蚊の足くらいに切って使う、と言う意味だが、流派によって大きさは違う。
御家流はもう少し大きく、5mm四方くらいに切る。

 

やれやれ、私の乏しい知識でも、香木のことだけ書こうとしても本当にたくさんあるものだと思う。
一つことばを使おうと思うたび、それについての説明も必要で、なかなか先へすすまない。

それぞれの香りについては、とても面白い記述もあるし、私の昔のノートの感想と引き比べて、また、別の機会に書いてみたいと思う。

 

 

鎌倉時代になって、香道の様式が整うにつれて、香木そのものを使うようになったのだが、それ以前の平安時代は、たくさんの香料の一つ、重要な素材として沈香は使われていた。
これらの素材を調合して作られたのが、練香(ねりこう)である。

「ねりこう」と言っても、白いワックス状になった練り香水とは全然違うもの。
見た目は、小さな黒い丸薬のように見える。

調合香料なので、処方によって香りに工夫がなされる。
源氏物語の薫物合わせは、和歌や取り合わせの意匠などを含めた、香り比べの優雅な遊びである。
これも、また別の機会に。
 

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ちょうど、昨日はお茶の炉開き(ろびらき)。

 

茶道では、夏は白檀(びゃくだん)、冬は練香を使う決まりになっている。
練香は、焼き物の香合(お香を入れる小さな容器)に入れられる。(白檀は木の香合を使う。)

 

 

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