香りを追いかけて
しっかりと栓を締めても、香りは少しづつ少しづつ逃げていく。
どんなに大切にしていても
思い出が時とともに褪せていくように。
私は手にとって蓋をあけ、ムエットの先を浸す。
吸い上げた僅かな液体から立ち上る香り。
例えば、初め涼しげな、やがてフローラルに、
そして最後に形成される香りのゆらぎ。
それはあたかも花芯に向かうにつれ
紅が濃くなるかのようなあやしさがある。
つかめそうでつかみ得ない、手を伸ばせはついっと、
一歩先に滑るがごとく離れて行ってしまうもどかしさ。
その正体をつきとめてみたくなる。
あなたのことはなにもかも。
窓から大気の中に消えてしまう前に。