ピンクの梅の花はかわいくて庶民的な感じだ。
でも、年齢とともに、きりっとした白い花が好きになってきた。
そして梅は、満開より一輪二輪がいい。
寒い日に、細く開けた障子の隙間から、庭の梅を眺めるのは趣(おもむき) がある。
一方、広い空の下で鑑賞するのはのびのびとした別の楽しさがある。
同じ女性(ひと)を、異なる場所において美しさを愛でるようだ。
梅の花の香りは、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)が主要成分で、オイゲノール(ユゲノール・Eugenol)が甘さを与えている。(ベンズアルデヒドの匂いは、杏仁豆腐を思い浮かべればよい。オイゲノールは、クローブ(丁子)または正露丸。)他にもたくさんの微量成分が合わさっている。
ひとつづつの成分からは、花の香りは想像できないかもしれないが、一緒になってあの梅の香りになるというのは、不思議なものだ。
商用として花から精油(天然香料)は採られないが、研究のため採油し分析したデーターでは50成分以上が同定されている。また、空気中に漂う香気成分もヘッドスペース分析されている。
しかし、それらの分析結果を忠実に処方しても、実際に梅林に行って吸う香りをそのまま再現できるわけではない。データーはあくまで参考に過ぎない。
それは、他の植物や花でもみな同じで、資料だけを読んで、その花を知っていると思ってはいけない。
当たり前のことだが、野に出て大気の中で現実の花の香を知り、また分析データーをもとに実際に調合してみて、その違いと相似点を評価する必要がある。
こうしてできた基本的な花のベースはまだ素材の段階だ。イメージを膨らませて、ひとつの処方を完成させていくのは、さらに先の長いことだ。