パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

梅 うめ

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梅の花 香りをかぐはしみ遠けども 心もしのに君をしぞ思う  市原王(いちはらおおきみ)

梅の歌は、万葉集に119首に及ぶほど、古くから貴人に愛でられた花だ。鶯や雪と共に詠まれている歌も多い。この歌は、市原王が梅の香りに寄せて、中臣清麻呂を敬い慕う気持ちを表したもの。

 

「かぐわしい梅の花の香りに、遠く離れていても心はいつもあなたのことを慕っています。」というような意味であろうか。「かぐわしみとおけども」とは畏敬のあまり近づけないという意味なので、恋い慕うというより少し遠慮があるようだ。

 

 

私の中では、白い梅は凛とした武家娘のイメージがある。ひっそりと咲き初めるころが特に趣(おもむき)があってよい。

 

まだ厳しさの残る早春に、ひとつふたつと花が開いていく頃が、最も心楽しい季節である。つかのま暖かい日があったと思うと、再び冬がやってきては、冷たい雪が長い蕊(しべ)に降りる。希望と失望を繰り返しながらも、少しづつ春に向かうことを知っているからこそ、私たちは今を待つことができる。

 

このような気持ちと言うものは、メリハリのある四季によって醸成された、日本独自の精神文化ではないかと、歳をとって思うものである。

 

梅は花木の中で特に香りのよい花だ。気品のある姿に比較して、香りは少し妖艶な面もある。赤と白でも香りが違う。

 

梅のことはひとくちには語りきれない。

 

▶ 花事典 梅:Prunier バラ科サクラ属 ウメ亜属 学名:Prunus mume 

▶ 香り成分:ベンジルアセテート・ユゲノール・ローズP など

 

 

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