パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

異国の香り ボードレール Parfum exotique/Fleurs du mal

 

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悪の華Fleurs du mal異国の香りParfum exotique 

 

Fleurs du mal Parfum exotique

Quand, les deux yeux fermés, en un soir chaud d'automne,
Je respire l'odeur de ton sein chaleureux,
Je vois se dérouler des rivages heureux
Qu'éblouissent les feux d'un soleil monotone;


Une île paresseuse où la nature donne
Des arbres singuliers et des fruits savoureux;
Des hommes dont le corps est mince et vigoureux,
Et des femmes dont l'oeil par sa franchise étonne.

 

Guidé par ton odeur vers de charmants climats,
Je vois un port rempli de voiles et de mâts
Encor tout fatigués par la vague marine,

 

Pendant que le parfum des verts tamariniers,
Qui circule dans l'air et m'enfle la narine,
Se mêle dans mon âme au chant des mariniers.

-- Charles Baudelaire

 

 

 

この古い詩のカードは、知人からの戴きものである。パリの古本屋さんで見つけたという。
いつか素敵な額に入れようと思いつつ、出してはしまい、また出して眺めたりしている。

 

ボードレールは、『悪の華』の中の「異国の香り」で、においが情景を思い起こす様子を詩にしている。彼は愛人の腋の匂いから、エキゾチックな南の島を連想するのである。

ここでは嗅覚だけでなく、触角、聴覚、味覚、視覚と五感のすべてを使って官能に訴えている。

 

記憶の中の南国の無垢な明るさと対極に、全篇には退廃が流れているが、堀口大学の訳は古い言葉のせいか、生々しさがくるまれていて好きだ。言葉の中に想像の余韻がある。

英語に比べてフランス語は古典的で、情緒ある言い回しのできる言語だという。
そのため英訳よりもむしろ和訳のほうが表現しやすいかもしれない。
もちろん翻訳者次第であるが。


原文は韻を踏んだソネット形式をとっているという。
ボードレールを専門に研究している人がたくさんおられるから、あまり浅薄なことは言うまい。

 

 

詩の最後のほうに出てくるタマリンドという植物は、甘酸っぱい大きな豆をつける。
加工して黒いどろっとしたペースト、ソースになったものを、チャツネなどに使うそうである。

 

マンゴー、パッションフルーツ、カシスといった南国のトロピカルフルーツは、特徴的にOXANE(オキサン)の香りがする。

このオキサンは腋臭にも似て、ツンとくる揮発性有機溶剤的な刺激臭である。
強ければ不快だが、アクセントに入ればトップにインパクトを与える。

このボードレールの愛人ジャンヌには黒人の血が流れており、その腋の匂いに連想したとすれば、タマリンドにも共通の匂いがあるのだろう。

 

 

もう、夏の終わり。
熱気の残る夕方に眺めるにふさわしい一葉。

 

異国の香り/Parfum exotique  

 

残暑きびしき夕なぞ、両の眼とざし、

熱くさき汝が腋のにおいをかげば、

幻に、わが目は見るよ、楽しげに広がる海辺、

照りつづく眩き陽かげ。

ものうさのこの島に、自然は恵む、

怪奇なる姿の樹木、甘美なる果実のあまた、

ほしいままなるまなざしの、人驚かす女たち。

 

 (ボードレール詩集 堀口大学訳の一部  1949年 28p)

 

 

 

 

 

 

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