1週間ごとに御苑の森は表情を替えて、みるみる夏の景色となっていく。
肉厚の乳白色のホオノキの花は、子供の頭ほどもある。
風に乗って遠くまで甘いボリュームのある香りが届く。
威風堂々とした樹姿、その花の大きさ、異形の蕊(しべ)。
可憐さ、たおやかさとは対極の圧倒的な存在感がある。
しかしその姿は、園芸品種の媚びた派手さとは違い、気品を感じる。
自然の力によってその形になった、必然がもたらす美しさなのだろう。
ほんの2週間前、ホオノキの花はまだ幼くて、褐色の衣を脱いだばかり。
このころの葉は、シルクのように柔らかである。
この大きな葉に味噌を包んで火にあぶると、香ばしい朴葉味噌(ホオバミソ)ができる。
昔、この食物を包んだ「包葉」という言葉から「朴葉(ホオバ)」と呼ばれるようになった。
1週間でみるみるうちに蕾は膨らみ、中の白い顔をのぞかせる。
新宿御苑には、私の知っている限り2本のホオノキがある。
一本は温室の近く、もう一本はつつじ山のあたりで、やや小ぶりの花を咲かせる。
まっ白な花びらはやがてクリーム色に熟しながら、中の蕊を赤く開き、あたり一面に芳香を飛ばすのだ。
大きな木にはまだたくさんの花のつぼみ。
咲きはじめたばかりだから、しばらくは香りを楽しめそうだ。
同じマグノリアの仲間にタイサンボク、オオヤマレンゲ、カラタネオガダマなどがあり、これらも似た花をつけるが香りはかなり違う。
香料については明日につづく。
モクレン科 モクレン属 学名:Magnolia obovata thunb