干し草 Hay absolute
「この麦はとてもいい麦だよ」と教えられる。
何についていいのかよくわからなかったけれど、古い品種だそうだ。
南仏にいたある日、近くの麦畑でのこと。
麦にもいろいろある。小麦、大麦、ライ麦。
そして「藁(わら)」って、よく耳にするとても身近なもの。
稲わらの入った畳や、麦藁帽子などなど、わらの製品は身近だけれど、そのまた原料の藁が何でできているのか、充分知っているつもりで、都会暮らしゆえ見たことがあまりない。
あるいは見たかもしれないが、興味がなかったのか、あいまいである。
だからあらためて、稲藁(いなわら)や麦わらとは、脱穀後の茎の部分であると理解したのだ。
よく知っているもののはずなのに、原料から最終製品まで、一直線に結びついていなかったというか。
わらを干した、干し草もそう。
干し草という名の草があるわけではないのに、原料について深く考えなかった。
干し草、Hayから採った香料。250kgの干し草から、およそ1kgの香料が採れる。
乾いた甘さ。ぬくもりのある。日なたのような。
この甘さは、桜もちの葉やウッドラフにも感じるクマリンの香りだ。
タバックの、そして下の方からぐんぐん上がってくるハニーの力強さ。
ムエットにつけてもう3日経ったのに匂いが残っている。
タバコ調の匂いと言っても、紙巻タバコの燃える嫌な匂いではない。
タバックアブソリュードのような、やや甘く、スモーキーでハニーの香り。
外国の小説によく出てくる「干し草の香り」、それにはどことなく憧憬を抱いて来たものだ。
またひとつ、香りへの想いが深くなった気持ち。