パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

香水の開発-1 設計 イメージを描く

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新しい香水の設計開発は、イメージを描くところから始まる。 季節はちょっと外れるが、ここでは、わかりやすく「さくら」の香りを創ったときを例にして、香水のできるまでを順に説明してみたい。

初めにイメージを描く。
これは、以前にも書いたが、日本人にとっての「さくら」を作りたいと思ってデザインした。 

 

 

「暦(こよみ)のない時代は、桜の開花をめやすに田植えをしたと聞いている。稲作文化の日本では、花見は豊作を祈願する明るい未来の象徴である。太古からの記憶に刷り込まれた故の、理屈ではない歓びがある。同時に、散る美学、美しく儚い(はかない)ゆえの哀しさが、日本人の心を揺さぶるのだろうか。

欧米では、「桜」というと実のほうを連想するようだ。そのため、海外ブランドの「チェリーブロッサム」という名の香水はフルーティなものが多い。香りの色も、ソメイヨシノの白に近い薄紅というより、八重桜のぽってりした濃いピンクを連想させる。そこに、大きな文化の差を感じる。

桜の種類は多い。次々と咲いていく3月の中旬から5月までは、本当に楽しみな季節だ。

枝垂れ桜はあでやかな粋筋の女性のようだし、ソメイヨシノは黒い樹幹と、花の集合のコントラストが時に妖しい。いっぽうヤマザクラ系は、葉と同時にパラパラと花が咲く、そのバランスが楚々として好みである。葉が桜餅に使われるオオシマザクラは、花のにおいもいい。」

 

 

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というわけで、他のブランドにはない、淡い色合いのぽわっとした、そして最後のほうに「匂い袋」のような甘い粉っぽい匂いを持つ私の「さくら」を創ることにした。

万葉集に出てくる、さくらの歌にも着想を得ている。

 

香水のタイトルは「さくら」。そのイメージを文章にすると

「白いはなびらが重なってうすべに色に染まる。万葉のときから愛され、私たちを慰めてくれた優しい花。」となる。

 

さらにこのイメージから、いくつかのキーワードを思い浮かべてみる。そのキーワードをさらに細かく、各パートに分けて、構成を考えていく。

大きなキーワードは、A「桜の花」B.「匂い袋のような」C.「上品でしっとりした」など。

 

この、大きなキーワードの中身を、さらに小さなパートに分ける。
たとえば、私の考えるA「桜の花」の部分を表す言葉として、

ア「儚く淡いピンク」、イ.「花霞」や、ウ「黒く濡れ濡れとした桜の樹幹」といったように。

 

アの「はかなく淡いピンク」は、白い色が重なってさくら色になるような優しい感じ。
外国のチェリーとは違う。

イの「花霞」は、一輪づつではなくて、たくさんの花がもわーっと、雲のようにけぶる感じ。

ウ、さくらの花を美しく見せるのは、黒い樹幹が引き立てているからだと思う。
でも、たくさんいれては全体が暗くなってしまうので、ほんのアクセント的に。

 

こんな風にして、どんどんと細かいディティールまで描き、構想を練っていく。
建築で言えばラフスケッチのようなものができる。

 

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香りをデザインするときは、大きく分けて

 

(一)何かを見たり、どこかへ行ったりして感動した時、こんな香りを創りたいな、というイメージから始まるとき

(二)とてもよい香料を見つけた時、これを活かしてこんな香りを創りたい、という香料から始まるとき

などがあって、これらをアイデアとしてたくさん引き出しの中にためておく。
ちょっとづつ、処方の形にしておくこともある。

さくらだったら、もちろん桜の花の香りを毎年かいで記録して、桜の主要成分(骨格になる香り)できちんと作らなければならないのは当然のことだ。

 

 

初めは、ああでもないこうでもないと、引き出しから出たものがごちゃごちゃしている。が、創り進むにつれ混沌の中から、あるときだんだんと方向が定まっていき、形になっていく。

 

 

 

会社に属していると、クライアントから指示書が来て、こういうものを作れとか、いつまでに、いくら以内に納めろとかの予算枠があるものだ。

そのため、なかなか自分好みの作品と言うものを出しにくいものだが、私は自分のブランドなので、好きなだけ香料に贅沢をして、わがままに香りを創れると言う幸せな条件にいる。

 

今の流行に合わせた、売れる香水ではないかもしれない。
私が美しいと思うものを、同じように感じる方に選んでもらいたいと思っている。

 

実際の、調香の手順についてはまた次に続く・・・。

 

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