パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

香水の開発-2 処方 アコードをとる

101116サクラ.jpg

イメージを描いたら、それをもとにアコードをとって処方を書く。 

 

 

 

 

 

前回のつづきで、少しおさらいしながらアコードについて説明してみたい。

 

①イメージの構成・・・大きなキーワード
私の作りたい「さくら」のイメージを、いくつかのキーワードを思い浮かべる。

大きなキーワードは、A.「桜の花」B.「匂い袋のような」C.「上品でしっとり」


この、大きなキーワードの例えば「A.桜の花」の部分。
これを表す、さらに小さな構成を、

ア「儚く淡いピンク」
イ.「花霞」や
ウ「黒く濡れ濡れとした桜の樹幹」と分解する。

 

101116サクラピンク.jpg 

 写真は、ア「儚く淡いピンクのイメージ」

 

②アコードをとる
各パートにふさわしいと思われる香料を、数本選択する。

例えば(ア)は、どちらかといえば、きつい香りより、優しい香りを取り合わせた方が合いそうである。

まず、ア「儚く淡いピンク」を表現するための3本を、異なる比率で何回もブレンドし、最も美しい調和の取れる比率が見つかるまで試す。
1:3:5とか、1:7:10とか、比率の差で、香りの立ちが違ってくる。

それは、調和のとれた和音のときに、別の新しい音が聞こえるのに似ている。

もし、選んだ香料がふさわしくなければ、また別の香料と取り換えてさらに試す、を繰り返す。
これを、「アコードをとる」という。

 

こうして、思いどおりの色が表現できたら、やっと(ア)の、一本のベース香料ができる。


HP3本アコード1.jpg

3本を一本に合わせた(ア)のベース香料

 

③香りのベース作り
同じように、数本の取り合わせで、イ.「花霞」のイメージのベースも、ウ.「黒く濡れ濡れとした樹幹」のベースも作る。

 

 花霞.jpg

 イ.の花霞のイメージ

さくらの樹幹.jpg 

ウ.の樹幹のイメージ

 

やっと(ア)(イ)(ウ)という3本の、香りのベースができた。

④ベース同士を合わせる
こうしてできた香りベース同士を、また組み合わせ、さらにアコードを取る。

  

どちらかというと、やさしい花の部分を多くして、木の幹のようなしっかりとした香りはほんの少しにしたいので、そのあたりを考えて(ア)(イ)は多く、(ウ)は少なめに、と配合比率を決めていく。

これで、大きなキーワードである、A「桜の花」のキーワードが出来上がる。

このAの「桜の花」のベースは、すでに10本程度の香料で構成されている。

香料瓶.jpg

 

⑤まとめあげ
A,B,Cを、またアコードをとって合わせる。
よりたくさんの香料で構成されたベースができてくる。

こうしてまとめ上げ、3本が9本、9本が27本といったようにして、構成する香料は増えていく。

本来の桜の花の香りの構成要素(アニスアルデヒドやβフェニルエチルアルコールなどで)でできた、骨格香料もベースとして欠かせない。


ここに、トップノートの部分や、ラストノートの部分など、同じように20~30本の香料でできたベースを合わせていくこともある。

最終的には、50本、100本の香料を、試行錯誤を繰り返しながら一本の香水にまとめ上げていく。


⑥微調整
一本の香水にまとめた後、イメージにより近づくように、そこに微量の香料を加えたり減らしたりして、さらに調整を行う。

処方の中で、1万分の1、10万分の1の成分が、香りをさらにまろやかにしたり、または匂い立ちをアップしたりを試みる。

ここまでの作業には、数ヶ月から数年を要する。


⑤香りの熟成
完成した香りは、瓶に充填され、2週間ほど熟成させる。

たまに香料は劇的な変化をし、創ったときとイメージが変わってしまうことも。
そんなときは、また初めから作り直すこともある。

 

⑥処方の一本化

最終的にベースを開いて計算をし直して、一本ののべ処方になおす。


オルガン.jpg 

 

実際にはもっと複雑な手順を踏むのだが、アコードを説明するために、ここでは基礎的な調香方法を解説してみた。

 

 

 

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