イメージを描いたら、それをもとにアコードをとって処方を書く。
前回のつづきで、少しおさらいしながらアコードについて説明してみたい。
①イメージの構成・・・大きなキーワード
私の作りたい「さくら」のイメージを、いくつかのキーワードを思い浮かべる。
大きなキーワードは、A.「桜の花」B.「匂い袋のような」C.「上品でしっとり」
この、大きなキーワードの例えば「A.桜の花」の部分。
これを表す、さらに小さな構成を、
ア「儚く淡いピンク」
イ.「花霞」や
ウ「黒く濡れ濡れとした桜の樹幹」と分解する。
写真は、ア「儚く淡いピンクのイメージ」
②アコードをとる
各パートにふさわしいと思われる香料を、数本選択する。
例えば(ア)は、どちらかといえば、きつい香りより、優しい香りを取り合わせた方が合いそうである。
まず、ア「儚く淡いピンク」を表現するための3本を、異なる比率で何回もブレンドし、最も美しい調和の取れる比率が見つかるまで試す。
1:3:5とか、1:7:10とか、比率の差で、香りの立ちが違ってくる。
それは、調和のとれた和音のときに、別の新しい音が聞こえるのに似ている。
もし、選んだ香料がふさわしくなければ、また別の香料と取り換えてさらに試す、を繰り返す。
これを、「アコードをとる」という。
こうして、思いどおりの色が表現できたら、やっと(ア)の、一本のベース香料ができる。
3本を一本に合わせた(ア)のベース香料
③香りのベース作り
同じように、数本の取り合わせで、イ.「花霞」のイメージのベースも、ウ.「黒く濡れ濡れとした樹幹」のベースも作る。
イ.の花霞のイメージ
ウ.の樹幹のイメージ
やっと(ア)(イ)(ウ)という3本の、香りのベースができた。
④ベース同士を合わせる
こうしてできた香りベース同士を、また組み合わせ、さらにアコードを取る。
どちらかというと、やさしい花の部分を多くして、木の幹のようなしっかりとした香りはほんの少しにしたいので、そのあたりを考えて(ア)(イ)は多く、(ウ)は少なめに、と配合比率を決めていく。
これで、大きなキーワードである、A「桜の花」のキーワードが出来上がる。
このAの「桜の花」のベースは、すでに10本程度の香料で構成されている。
⑤まとめあげ
A,B,Cを、またアコードをとって合わせる。
よりたくさんの香料で構成されたベースができてくる。
こうしてまとめ上げ、3本が9本、9本が27本といったようにして、構成する香料は増えていく。
本来の桜の花の香りの構成要素(アニスアルデヒドやβフェニルエチルアルコールなどで)でできた、骨格香料もベースとして欠かせない。
ここに、トップノートの部分や、ラストノートの部分など、同じように20~30本の香料でできたベースを合わせていくこともある。
最終的には、50本、100本の香料を、試行錯誤を繰り返しながら一本の香水にまとめ上げていく。
⑥微調整
一本の香水にまとめた後、イメージにより近づくように、そこに微量の香料を加えたり減らしたりして、さらに調整を行う。
処方の中で、1万分の1、10万分の1の成分が、香りをさらにまろやかにしたり、または匂い立ちをアップしたりを試みる。
ここまでの作業には、数ヶ月から数年を要する。
⑤香りの熟成
完成した香りは、瓶に充填され、2週間ほど熟成させる。
たまに香料は劇的な変化をし、創ったときとイメージが変わってしまうことも。
そんなときは、また初めから作り直すこともある。
⑥処方の一本化
最終的にベースを開いて計算をし直して、一本ののべ処方になおす。
実際にはもっと複雑な手順を踏むのだが、アコードを説明するために、ここでは基礎的な調香方法を解説してみた。