パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

白バラと赤バラ  杉の棺から

 

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赤と白のどちらが好きかと言えば、私は白が好きだ。
でも、思い出深いのは深紅の、匂いのするバラだ。
「タチアナ」という。

 

 

昔、30年近く前に一番初めに買った苗で、育てやすく、珍しい種類でもない。 
ビロードのような感触の、ごくオーソドックスなバラである。

赤いバラは、庭に咲いているよりも、室内に活けるとずっと映える。

昔の家は応接室という部屋があったもので、
そうした、普段人気のない少し薄暗い部屋におくと、
芳香まで気品が満ちて、けっして野外の花ではない。

 

 バラを象徴的に登場させている小説は多い。昨日のアガサ・クリスティの「杉の棺」にも、エレノアの愛と憎しみ、そして感情の昇華のありさまを、バラを使って語らせている。 

「・・・ロッジのわきのバラ・・・私、ロディーと一度喧嘩をしたことがありました。 ー ずっと昔 ー バラ戦争のことで。私はランカスター家の味方で、ロディーはヨーク家側でした。ロディーは、白いバラが好きだと言いました。私は白バラなんて本当のバラじゃない、においもありはしないって言いましたわ。私、紅バラが好きだったんです ー 大きくて濃い色の、ヴェルベットのような花弁の、夏の香がする ー 私たちバカみたいに言い合いをしました。そのことが急に心によみがえってきたんです ー あの食器室(パントリー)で ー そして何かが ー 何かが消えて行きました ー 私の心にわだかまっていた真っ黒な憎しみにが ー きれいに拭われてしまったんです・・・」(杉の棺,P248,1976年)

 

バラのこと、たぶんみんなにも思い出がある。
お庭のバラや、誰かにバラを贈られたこと。
悲しいバラも、嬉しいバラも・・・。

薔薇を語り出したら、話はきっと尽きない・・・。

 

 

 

 

 

 

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