買ったばかりの瑞々(みずみず)しく青い茎を水の中で切り戻せば、顔近くに清冽(せいれつ)な匂いがよぎる。
わずかならその清楚(せいそ)さに気を引かれるが、あらためて花芯に顔をうずめてみれば、それはよく知った「濃密な甘さとアニマルをグリーンで覆(おお)った香り」である。
「ああ、やはりおまえか」と声には出さず、呟(つぶや)いてみる。そして想う。
いまごろは、眠った桜の林ノ下に、スイセンが群れているだろう。
そこでは、朝の光が木立を透かし、水仙の群れをより白く染める。木枯らしの通る道に、花々は頭(こうべ)をたれ、しゅんと細く伸びた葉先がうねるように波打つ。
風に集められた獰猛(どうもう)な香りが、やがて押し寄せる。
この時期の御苑の品種はペーパーホワイト。インドール(indole)の強い種類である。
ナルシス、オレンジフラワー、チュベローズ。清純な白い花はなぜ同時に肉感的なのか。官能を中に封じ込めているから、いっそう白が輝くのだろう。
一輪のスイセンの開花は短い。香りとともに命を燃焼し、茶色く枯れゆく花びら。しかしつぎつぎとつぼみが開いて、下からは次の茎が伸びてくる。
輪転(りんてん)を想いつつ、花の香を慈(いつく)しむ年の初め。