パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

水仙考 Narcisse, Narcissus

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スイセン水仙、ナルシス(Narcisse, Narcissus)については、過去何回も書いたので書き尽くした感があるが。
 
 
最近ではちっとも新宿御苑に行くチャンスがない。せめて生花店で買い求めた日本水仙の数本をアトリエに活けて、あの、スイセンの広がる林を思い出している。
 
 
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買ったばかりの瑞々(みずみず)しく青い茎を水の中で切り戻せば、顔近くに清冽(せいれつ)な匂いがよぎる。
 
わずかならその清楚(せいそ)さに気を引かれるが、あらためて花芯に顔をうずめてみれば、それはよく知った「濃密な甘さとアニマルをグリーンで覆(おお)った香り」である。
 
 
「ああ、やはりおまえか」と声には出さず、呟(つぶや)いてみる。そして想う。
 
いまごろは、眠った桜の林ノ下に、スイセンが群れているだろう。
 
 
 
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そこでは、朝の光が木立を透かし、水仙の群れをより白く染める。木枯らしの通る道に、花々は頭(こうべ)をたれ、しゅんと細く伸びた葉先がうねるように波打つ。
 
風に集められた獰猛(どうもう)な香りが、やがて押し寄せる。
 
この時期の御苑の品種はペーパーホワイト。インドール(indole)の強い種類である。
 
 
 
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ナルシス、オレンジフラワー、チュベローズ。清純な白い花はなぜ同時に肉感的なのか。官能を中に封じ込めているから、いっそう白が輝くのだろう。
 
 
一輪のスイセンの開花は短い。香りとともに命を燃焼し、茶色く枯れゆく花びら。しかしつぎつぎとつぼみが開いて、下からは次の茎が伸びてくる。
 
 
 
輪転(りんてん)を想いつつ、花の香を慈(いつく)しむ年の初め。
 
 

 

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