いまどきマッチなんて珍しい!
ホテルオークラのレストランで素敵なマッチを頂いた。
昔はどこのカフェにも食堂にも、お店のマッチが置かれていたものだ。
いまは、多くの人がタバコをやめてしまったし、マッチの出番は仏壇に置くくらいだろう。
事実、母も「ちょうどマッチが無くなったからよかったわ」と喜んでいた。
そんな様子をみていた私もようやく、携帯用お香入れにちょうどよいと気がついたものである。
これは、ホテルオークラ本館の建て替え工事によって、歴史ある建物がなくなってしまうので、そのデザインのメモリアルマッチなのだそうだ。
ホテルには、麻の葉や鱗紋など、内・外装に多くの日本の伝統文様がデザインされている。
昔からこのホテルで見慣れた、懐かしい柄が描かれたマッチ箱。
私もとても欲しかったので、レストランに行くたびにひとつずつもらってきたのだが、大人気だったようですぐに無くなってしまった。
このデザイン、「どこかでみた!」と思ったら、エントランスやロビーの天井から下がっている吊り灯だ。
切子玉形という、菱形六面体をつなげたもので、今はオークラ・ランタンといわれるほど象徴的になっているそうである。
8月には本館は閉館し、高層ホテルになるらしい。
外資系の大きなホテルと違って、ここはどことなくぬくもりがあって、とても居心地がよかったのだけれど残念だ。
新しく建つまでは別館ひとつになってしまい、今より一層混むのではないかと思う。
食堂難民になってしまうのではないかと心配。
マッチより、「燐寸」と書くほうが儚(はかな)さがあっていい。
タバコの煙の臭いは嫌いだけど、その人がマッチを擦る匂いが好きだ。
花火のような、青い、燐の燃える夏の匂い。
ずっと嗅ぎたい香りでは無いけれど、一瞬通り過ぎる過去をつかみ損ねる、そんな気分になる。