なるほど、玉虫(たまむし)は英語で「Jewel Beetle」と言うのか。
標本でなく、生きた玉虫は確かに宝石のようだ。
たまたまアトリエの近所で見つけた玉虫。
生きている玉虫を見るのは、生まれてからたった3度である。
それほどとても珍しい。
ケヤキや楡のこずえのほうに住んでいるので、めったにお目にかかれない。
子供の頃の教科書にも載っている玉虫の厨子が、数年前国立博物館で展示され、見に行ったことがある。
だいぶいたんではいたけれど、翅の輝きは残されていた。
昔の日本には宝石というものがなかったから、玉虫はとても貴重であったと推測される。
若い人に聞いたら「玉虫の厨子」を知らなかったので、いまの教科書には載っていないのかもしれない。
最初に玉虫を見たのは小さい頃。
年の離れた兄は、引き出しを開けて死んだ玉虫を得意そうに見せてくれた。
エメラルドグリーンと臙脂色の縦じまの、きれいな昆虫だと思った。
その後私は大人になって、小学生くらいの男の子がシャツの胸にとまらせているのを見た。
これが生きた玉虫を見た初めてである。
背の高い木の下に落ちているのを見つけたそうである。
玉虫が歩くにつれ、翅がキラキラと輝いてまるで宝石で作ったブローチのようであった。
2年ほど前、明治神宮の池のほとりで、空飛ぶ玉虫を見た。
何か御利益があるような気がしたものだ。
これが2回目。
そして3日目の今回は、そばでじっくり見ることができたのである。
じっとして動かなかった玉虫はやがて、のそのそと枝をはいながら、先まで上り詰めると飛んで行ってしまった。
明治通りの夏の暑いアスファルトの上を、ブーンと言う音を立てて空高く去っていった。
新宿御苑に帰れるといいけれど。
タマムシ色の回答とは、どうとでも変化するあいまいな答えのこと。