これは連れの若い衆がたのんだひつまぶしの大盛。すごい迫力である。
食欲をそそる香りが漂ってきて、思わずお腹がぐうとなるのである。
生のうなぎには蒲焼のにおいがないのだけれど、身を焼いて醤油だれが焦げることで、あの香ばしい鰻独特の匂いになる。
人類が火を使うことで得た恩恵は、社会的文化的進化と脳の発達と蒲焼きのかおり、とかなんとか、おいしいものを前にはしゃいでしまう。
熱を加えることで香りが生まれるのは、フレーバー・プリカーサー(前駆体)という物質がある食品で、コーヒーのローストされたにおいや焼き肉などにある。
まづは鰻の骨をカラッと揚げて味をつけた突き出しを肴に、ちょっと冷酒を頂く。夏の楽しみである。
ドーム型の窓の外には麻布十番の街が眺められ、昔、このあたりでよく遊んだことを思い出した。
そして私はおもむろに小さめのひつまぶしに箸をつける。蒸さずに焼いたウナギに刻みを入れてご飯の上にのせてある。
関東風の蒸してから焼く方法は、身がやわらかく食べやすいが、時にたれが甘すぎてくどく感じることもある。
このひつまぶしは、しっかりとした身が濃い目の味を受け止めて、鰻の旨みが引き立つようである。薬味(やくみ)をかけたり、出汁(だし)で湯漬けにして食べてもよい。
ザ、ウナギを食べたという満足感を得た。
ここはビルのインターホンを鳴らして入った5階にある。その上には螺旋(らせん)階段で上がるカフェメシ風のロフトがあり、インテリアはモダンでお洒落だが鰻の味は正統派で、期待を裏切らないと思う。