パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

おしゃべりな花  telltale flowers

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その花壇にいるちょっぴり見栄っ張りな花たちは、美しくあるためだけに作られました。


 

「私は100メートルもある温室で大事に育てられましたの。たくさんの育成家がかしずいていました。私の花びらに入ったメッシュはその工夫の成果で、賞を取ったこともあるんですよ」

 

「私なんか百枚もはなびらがあるのよ。おばあさんのそのまたおばあさんの代の時には、たった5枚しかない一重の花だったけど、手をかけて枚数をふやしてもらったの。花壇に植えてもらえるのは私のような立派な花なのよ。」

 

「一枝にたくさん花をつけるためには、なんといっても栄養をたくさん取らないと。私は特別な配合の肥料と、朝晩たっぷりとおいしい水をいただきますの」

「私は選ばれた花ですもの、道端に咲いているようなみすぼらしい花とは違いますからね。」


 

それぞれは誰も人の話なんか聞かないで、自分の自慢ばかりしていました。

 

 

そこへ蝶々が飛んできました。
花たちは急におしゃべりをやめて、「蝶はきっと、私にキスしにくるに違いない」と澄まして待っていました。(私は花がこっそりお粉をはたいて化粧直しをしたのを見ましたよ。)

 

 

しかし蝶は花壇を越えて、野の花を目指してすいっと飛んでいくと、その中の一輪にお姫様にするようなうやうやしい接吻をしたのです。

 

彼女たちがみすぼらしいと思っていた花の香りは、甘い蜜の味でした。

 

花壇の花たちは顔を赤らめ、ばつが悪そうにうつむいてしまいました。

 

それでもまあ、花たちのこの程度の見栄なんて、無邪気なおしゃべりですよね。

 

 

 

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