私が最初に持った懐中時計は祖父の形見である。小ぶりだがとてもきれいで、とくに鎖の桔梗の中心に小さなパールが入っていてかわいい。古い古いケースには、右から左へ、小樽の工藤時計店と書いてある。
古い櫛は、由来のわからないものはあまり持ちたくないものだが、これは祖母のもので、蒔絵が入っていて眺めていてあきない。毎日髪結いさんが来ていたそうだから、きっと櫛も好きだったのだと思う。
二人ともたぶん明治の人で、私が生まれた時は他界していたので会ったことはない。昔、どちらも父からもらったものだ。
これを見ていてふと思い出した。
オーヘンリーの「賢者の贈り物」という有名な短編小説がある。
貧しい夫婦が、クリスマス・イブに互いに一番大切にしているものを手放して、相手のプレゼントを用意する。妻は、自慢の長い金髪を売って夫の懐中時計の金鎖を買い、夫は懐中時計を売って妻の髪を留める美しい櫛を買う。
待ち合わせの場所で落ち合い、二人はそのプレゼントが無駄になったことを知るのだが、代わりに愛というかたちのない贈り物を得たというお話。
が、この時計が私の手元にあるということは、祖父母にはそういうドラマはなかったのだろうナ。