美しい機械時計の魅力
スケルトンの手巻き腕時計
私がいま持っている腕時計はみなゼンマイで動いています。
時計の美しさは機能美です。その最も大切な部分を見せたのがスケルトン。この時計は表だけでなく、シースルーバックになっています。
時計マニア、というほどではありませんが、小さいころから歯車が好きでした。どのような仕組みで動いているのか知りたくて、家の時計を分解したという子供は多いと思いますが、私もその一人です。
当時の子供部屋の壁には、時計の部品で描かれた絵がかかっていました。
小さな金縁の額には、ゼンマイやら歯車やらが並べられて、クラッシックカーの形になっていたのを覚えています。
中学生になって初めて買ってもらった腕時計はラドー(RADO)です。ブルーの文字盤で小ぶりの四角のケースでした。
それは機械時計ではなく、また、そのあとでいくつか持っていたドレスウォッチもみなクォーツでした。
女性用は機械式は少ないようですね。メカニックよりケースのデザインが好きな女性が多いと思われているのでしょう。
でも、調香のアトリエを始めてまもなく、機械時計に強く惹かれるようになりました。この写真のスケルトンの時計は、そのころ手に入れたものです。
機械時計は働き者
2000年に個人で調香の仕事を始めて、最初の10年くらいは一日16時間くらいアトリエにいたと思います。
土日もなく、正月は2日からなんだかんだと作業をしていました。アトリエにいるのが好きだったんですね。体力もありました。仕事すればするほど「えらい」と思われていた時代です。
しかしいくら長く仕事をしても「見合うような成果が出ない」と思うこともしばしば。自分に対する期待が大きかったのでしょう。日本でインディペンデントの調香師になるには、時代が早かったかもしれません。
そんなとき、腕にはめたこのスケルトンの時計の中を見つめていると、働き者の歯車たちがとても愛(いと)しく思えました。
リューズを巻いて、巻き上がったゼンマイがほどけるとき、歯車から次の歯車へと動力が伝わり、チクタクチクタクと振り子(テンプ)がリズミカルに動く。
特に好きなのはテンプと、ギザギザのついたガンギ車です。心臓の鼓動のようです。
そして働いても摩耗しない、擦り減らない・・・軸受(じくうけ)にはめられたルビーの赤を見ていると、頬が紅潮し勇気がでてきたものです。
なんといっても、「香水を作る仕事は、ひとつの時計を組み立てるようなもの」と、シンパシーを感じたのかもしれません。
「時間」という抽象的な概念を、目に見える形に示したのが時計だと思います。
砂時計、水時計、日時計など、時を計るにはいろいろな時計があります。
中でも機械式腕時計は、一連の歯車動力を丸い小さいケースの中に収めて、正確さと利便性を持ち、かつ極限まで美しさを追求した、芸術作品だと思う方は多いのではないでしょうか。