パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

匂いの帝王、そしてパルファン・ル・ギド Perfume the Guide/Luca Turin

 

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匂いの帝王、そしてパルファン・ル・ギド Perfume the Guide/Luca Turin

 


この数年間で最も幸せなニュースがお客様によってもたらされた。いわく、「香水ガイドをみてパルファンサトリを知り、興味をもって来ました」とのこと。

 
よくよくお話を聞いてみると、2008年、2010年に続き出版した「香水ランキングガイドブック」の第3弾の英語・キンドル版が、この程(2018/6/26)出版されたという。
 
「匂いの帝王~天才科学者ルカ・トゥリンが挑む嗅覚の謎~」(チャンドラー バール/Chandler Burr著)のモデルとなったルカ・トゥリン。世界中の香水を5つ★で評価する『Perfumes The Guide(世界香水ガイド)』の最新版である。
 
 
出版元からは特に連絡がなかったので、お客様からそれを聞いたときの驚きと感動たるや!!なぜならば、この本にパルファンサトリの香水が掲載されることは、私の夢のひとつであったから。
 
 
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ルカ・トゥリン氏は、生物物理学者であると同時に、香料の研究者であり、香水の評論家としても名高い奇才とでもいえばいいのだろうか。
 
 
今から約15年前に、この本との出会いがあった。
 
「匂いの帝王」は2003年に邦訳が出版され、当時の日本は(というか今でも)、香水に関する本が少なかったので、興味を持ってすぐに購入した。
 
 
読み進むうちに、彼の「香りの言葉力」と「破天荒な生き方」に非常に惹(ひ)かれていった。文中にいくつか掲載されている彼の香水レビューは、それまでの「ブランドリリースをなぞっただけ」の香水紹介本とはまったく異っている。
 
常識にとらわれない表現力の豊かさ、そして香水ブランドがスポンサーにいたら書けないだろう、辛らつな内容。その後、英語版も購入して日本語版と見比べながら読んだ。
 
詳しい内容については別の機会を設けたいが、例えば、匂い分子がどうやって嗅覚で認識されるのか、世界で支持される「形状説」に対して「振動説」を主張する彼の長い戦いや、神話のようなアンティーク香水店から最新の香料が生まれる香料会社のラボまで、彼とともに世界中に旅をする本である。
 
本書の最後にもかかれているように、これはポピュラーサイエンスであると同時に、ヒューマンストーリーでもある。
 

 
 
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そして、この「匂いの帝王」に引用されていたレビューのオリジナル、「パルファン・ル・ギド(香水ガイド)」をぜひ読みたい!と思い、パリで古書店など回ってみたりもした。


やっと私が「Parfums :le Guide Edition 1994」を手に入れたのは2006年。インターネットでフランス語バージョンのPDFを発見、ダウンロードした。プリントアウトして、辞書を片手にむさぼり読んだのである。

 

 

やがて2008年に日本語版が出版された。

読むほどに「どうしても、ルカさんに私の香水を評価してもらいたい」という切実な気持ちでいっぱいになった。自分の香りには自信があったものの、日本ではまだ、香水は海外ブランドを買うものと思われていたし、小さなメゾンフレグランスが注目されることはなかったのである。


本のどこかに書かれた彼のプロフィールに、ある「英国の大学」にいると書かれていたので、(学部も研究室もわからないまま)とにかく香水のサンプルと手紙を入れてルカ氏に宛てて、郵便で送ってみたのである。

 

よく考えれば、フランス語で出版された後、日本語に訳されて私の手に渡るまでに年月が経っている。彼の行動力を想えばひと所に居つづけることはないだろうから、私の手紙がもし運よく大学まで届いたとしても、彼はおそらくほかの地に移ってしまったであろう。

時々、手紙の行方をぼんやりと思い浮かべた。自分は絶海の孤島にいて、海岸から投げ入れた「ガラス瓶に詰めた手紙」は、どこかへ漂流(ひょうりゅう)していくのだ。

そして第2弾が2010年に出版されてから、次の香水ガイドは出されぬままになった。

 

 

8年がたった。
2018年の3月。一通のメールが、共著者であるタニアサンチェス(Tania Sanchez)さんから届いた。読むと、「香水ガイドを書く予定なので、今月中にあなたの香水を送ってください」と書いてある。

 

「え、あの?香水ガイドのあの人?」
ようやく来たチャンスにスタッフとともに手を取り合って喜んだものである。全種類にするか、それともセレクトして送るか。最終的に日本らしい香水と、海外に輸出しているものを中心に9点を提出することにした。

 

急ぎ準備をしてサンプルと資料を送る。送った後で『しかし、芳しくない評価だったらどうしよう・・・。』
ちょっぴり不安もよぎるが、選考に上ったこと、舞台に立てるということが何より嬉しい。

最初の香水ガイドで1437点、Ⅱには1885点が掲載されたので、おそらく今回もより多くの香水が集められ、それをすべて評価したら半年はかかるのでは?

早くても出版は年末だろうと思っていたが・・・。

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リクエストから予想外に早い出版に意外な思いもしたが、プロジェクトはもっと前からスタートしていたのであろう。お客様が帰られた後、大急ぎでアマゾンでその本を購入して、キンドルで開く。

「うわー!ドキドキする・・・見るのが怖い。。。」と私。

「でも、それを見てお客様がいらしたんだからいい評価ですよ、きっと!」と励ますスタッフ。

 

satori で検索して掲載の項目をチェック。結果は香水5作品が★★★★4つ、そしてニューアコードの世界のベストテン4位にも選ばれた。詳しくは昨日のブログのとおりである。

なんという嬉しさ。ブランドの生い立ちから、一つずつの香水のできるまで、そんな限りないエピソードが次々とよぎっていく。


海外からのお客様たちがパルファンサトリの香水を自国に持ち帰り、外国のブロガーさんに取り上げられ、世界中の香水ファンのSNSで話題になる。やがて「フレグランチカ」に掲載され、海外の香水ブティックで販売されるようになった。

 

ガラス瓶につめた私の手紙は少しずつ波に打ち寄せられ、別の形で彼ら(Luca Turin氏とTaniaさん)のもとに届いたものと思われる。

 

「自分の好きな香りを思うように作っているのだから、人に何と言われようと気にしない」
「たくさんのお客様がパルファンサトリの香水を買って下さるということが、何よりの評価なのだ」
と言い聞かせてきたが、やはりこうして自分のブランドが世界でも認められたことが素直に嬉しい。

 

この仕事を個人で始めてから19年、会社を作ってから10年。辞めたいと思ったことは数えきれないけれど、やっていてよかったと思うこともたくさんあった。挫折の数だけ復活もあったわけだ。


周りからはスロースターターともいわれるが、ようやくスタートラインに立った気持ちである。ただ、ただ、今まで支えてくれた人々に感謝するばかりである。

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