パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

七夕の朝の一服 Tanabata'Star Festival'

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今朝、この茶碗を手に母がそばにやってきて言う。
「お茶を飲み干して、この茶碗の中をじっと見ていると、なんだか宇宙に吸い込まれていくような気がするんだよ」
 
この茶碗の銘は「天の川(あまのがわ)」。
その名のとおり、瑠璃(るり)色の夜空に、天の川が描かれている。

というのは茶碗の見込みに、刷毛(はけ)で二筋、金が刷いてあるのを銀河に見立てたものである。
よく見ると、天の川に沿っていくつかの星座も見つかった。
 
続けて母は言う。
「眺めていると、この大宇宙の中に自分が生かされているっていう感じがして、なんだかとっても嬉しくなるんだよ。若い頃はそういうことを本で読んでも、なかなか実感としてわからなかったけどねえ」
 
 
私は仕事に出る前で、ちょっと慌てていたので、母の話を半分に聞きながら、
 
「そうね、そうやって宇宙の力を自分の中に呼び込むんでしょ」
とか知ったように話を合わせたつもりが、
 
「そうじゃないんだよ、宇宙っていうのは、もうすでに自分の中にあるの。それに気が付くかどうかっていうことなんだよ」
 
と母に切り返され、『あ、おみそれしました...』
 
と、一本取られたのである。
 
 
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七夕には、笹の葉のお抹茶茶碗でいただく「毎朝の一服」
 
 
母の茶歴は女学校時代から数えると70年あまり。「毎朝の二服」は40歳から、50年間続けている。
 
その母に触発され、私も「毎朝の一服」をインスタグラムにアップし始めてまだ浅いけれど、やっぱり日課にするというのが大事なのだと思う。
 
母はきちんとお手前をするが、私は毎朝となると時間がないので、抹茶にお湯をさして点てだしで飲む、ただそれだけ。
 
たったそれだけでも、日々、味が違うことに気が付く。
 
 
気持ちの急(せ)いているときは泡が荒くなるし、お湯がぬるすぎても、カンカンに沸騰して熱すぎてもダメ。
抹茶の量が多すぎれば底に残り、少なければ泡が立ちにくい。
 
鉄瓶から注ぐのでは、茶碗の形や大きさによって、おもいのほかお湯の量が入りすぎたりする。
柄杓(ひしゃく)を使うというのは、大変合理的な作法である。
 
それにフランス、オランダで毎朝の一服を点てたときは、水の違い(軟水・硬水)でちっとも泡がたたなくて、往生(おうじょう)した。
 
簡単なことではあるけれど、段取りをきちんとしなければ、きちんとしたお茶は立てられない。
 
茶の湯とは、ただ湯をわかし茶を点(た)てて、のむばかりなることと知るべし」

中学生の時、お茶の初めに習った利休百首のこの言葉は、日常のあるべき姿を詠んだものと思うけれども、簡単なことが一番難しい。
 
初心者だけでなく、生涯学ばなければならない修行の道である。
 
 
わかっているけど、「日々是好日」にはほど遠く「日々是荒日」、荒れた朝は慌ただしく過ぎていく。
 
 
 
 
 

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