パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

ムソルグスキー 展覧会の絵

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夕方5時45分に、元アシスタントのR子ちゃんから、「突然ですが、今夜サントリーホールのコンサートに行きません?」とメールが来た。「いくいく!」

 

今日6時半の開場に間に合うよう、やりかけの仕事をそのままにしてアトリエを飛び出る。誰が何を演奏するのかわからないまま、六本木のサントリーホールへ。R子ちゃんは今、某経済評論家の秘書をしており、その関係でのお誘いがときどきあるが、今日は誰かのピンチヒッターのようである。

さて、入口でチケットを受け取り一緒に席に。ヴィニャード型のホール2階RBは、左袖で、ピアニストの手元がよく見える。パンフレットを見ると、「ムソルグスキー展覧会の絵」である。

はるか昔の10代の時。この曲が欲しくて、たまたまロスのレコード店に買いに行ったのだが、邦題しか知らず店員さんにどうしても通じなかった。緑の上っ張りをきた小太りのおばさんの前で、プロムナードを歌ってみせたっけ。

音楽と香りは、共通点が多い。用語にも、アコード、ノート、オルガンなどが重なるものがあるし、何よりどちらも目に見えないもの。からっぽの空間を満たしていくものだ。

また、19世紀後半に考案されたピアッスの香階表という、音階と匂いを対応させたものがある。
香りは音符。2つ、3つの香りがアコードをとって、和音となる。和音が連なり、旋律を奏でるように、匂いを組み立てていく。

楽式論は知らないが、一つの曲が軽快な導入部分からドラマチックに盛り上がり、やがて、静かに終わっていく・・・という流れを、トップからラストの匂い立ちの変化となぞらえることもできる。

オリエンタルな香水は、オーケーストラの演奏する重厚なクラッシック音楽。複雑にまじりあった音色は、一つの楽器のようにも思えるが、たくさんの音の重なりである。もっとシンプルな香水は、たとえば弦楽四重奏のフローラルブーケや、ソロ演奏はシングルフローラルだろうか。

私にとってピアノはローズ。華やかで、愛すべきわがままなこの香りは、ソロとして香水になるパワーがあるが、複数のアコードの中では上手に組み合わせないと、主張しすぎて魅力を活かしきれない。

おしなべて、私は弦楽器が好きである。
コントラバスは、バルサム調。ヴィオラジャスミンかな』
などと勝手なことを思っているうちにどんどん演奏に引き込まれ、あっという間に2時間が過ぎた。


アンコールは、ダニーボーイ。オーケストラの2/3を占める弦楽器だけで演奏された豊かな響きは、ビロードのようなフローラルウッディの香り。食後の上質なチョコレートを味わった気分で、余韻とともにホールを後にする。

さて、仕事場に帰ってまた続きをしなくては・・・。


<解説>
調香オルガン台  たくさんの香料が並ぶ調香のための机。階段状の棚に順序よく並べられた香料の様子が、まるでオルガンの鍵盤の様にみえることからそう呼ばれた。
アコードAccord  音楽用語では、和音・調子の合っていることをいい、それと同様に香りにおいても、香りの調和あるいはそのつりあいのことをいう。(過去ログ:アコードを参照ください)
ノートNote これは、もともと楽器の音や曲調をあらわす音楽用語であるが、香料では、香調を表現するのに「ノート」という言葉を使う。柑橘系の香りを「シトラス・ノート」と呼んだり、最初に立ち上る香りをトップノートという。

<3/24日の演奏>
オランダ・アーネムフィルハーモニー管弦楽団
指揮:小林研一郎
出演:中村紘子
1.ケース・オルタウス:地蔵
2.グリーグ:ピアノ協奏曲イ単調 Op.16(ピアノ:中村紘子
3.ムソルグスキーラヴェル編:組曲展覧会の絵
ダニーボーイ、ハンガリアン舞曲

 

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