ピエール・エルメのパティシエの方が時々遊びに来て、新作のケーキを持ってきてくれる。
左上のチョコレートのケーキ、これが今回の新作で、
今までタブーとされてきた、チョコレートとカシスの組み合わせが新しい試み、なんだそうだ。
うーん、甘酸っぱいカシスと思いのほかあっさりしたチョコレートが口に広がる。
見た目、ザッハトルテ風でこってりかと思ったら、あまり甘くないし、軽い。
このケーキには、原種に近い珍しいチョコレートが使われている。
エチオピアのクリオロ種チュワオで、世界中のカカオ、全収穫量の1%しかない。
(彼の受け売り。いろいろ聞いてしまった・・・)
今まで、「チョコとカシスとは絶対に合わない」と言われてきたそうだが、このチュワオというカカオ、やや酸味があって、これがカシスの甘酸っぱいグリーン・フルーティと合うのだ。
お菓子の世界も、香水と同じだと感じる。
パティシエもパフューマーも、新しいアコード(組み合せ)に挑戦すると同時に、いつも珍しい素材を探している。
右はリンゴのアンペラトリス。
下に、リ・オレ(お米をミルクで炊いたもの)がしいてある。
これは昔からある、フランスの田舎の伝統的なお菓子なんだって。
白いケーキは、マスカルポーネとメープルシロップのムース。
中にはドライフルーツやナッツが入っていて、とても複雑な味わい。
ちょっとづつシェアして試食してみる。
どれも、とってもおいしいし、そのアイデアの斬新さに刺激される。
上の写真は、パティシエの彼が初めて来た時に持ってきてくれたケーキ。
他にも何種類かあったのだけど、いつもどおり写真を撮る前に手をつけてしまった。
写真がシャメなので、いまいちだけれど、右は、ライチとローズのケーキ。
バラの花びらがパリっとしていて、とても新鮮だ。
こんなふうに、お菓子に乗せても花弁がしなしなっとならないのは、よほど特別な加工がしてあるのかと思ったが、ただただ、「新鮮で傷のないはなびらを使う」ということでびっくり。
前にも、ライチとローズの組み合わせについては記事に書いたことがあるが、ゲラニオールという成分が両者に共通なこともあり、相性がよい。
彼は、フランスのピエール・エルメで修業した。
フランス修行中は、生クリームに天然アンバーを微量入れたものも試みたそうだ。日本では絶対受け入れられない。無理だと思う。
が、フランス人は「うーん、なるほど」といってなかなか評判がよかったそうだ。コストの面で商品化はされなかったらしい。
2度目の来訪のときは、新作のムースを持ってきてくれた。
ワサビとグレープフルーツの組合せと聞いて、ちょっと引いた。
が、食べてみると引き締まった感じがおいしい。
ワサビは世界的なブームだ。
確かに、ワサビのピリッと揮発臭的なところと、グレープフルーツのチオっぽさは合いそうな感じがある。
なんでも、エルメさんは食材を、直感で「これとこれ!」と合わせるらしい。
しかし、パティシエの彼は、そこにセオリーがあるのでは、と考えている。
例えば、ライチとローズの組み合わせに理由があるように、他にもロジカルな組み合わせがあるのではと。
香水のアコードと重ねて話してみると、もちろん、長い歴史の中で、組合せというものは研究され尽くしてきた。その先人の発見を無視するのはナンセンスだし、そこからスタートできるのは後世の人間に与えられた恩恵だ。
でも、まったく新しい、素晴らしい組み合わせというものは、直感で感じるものだ。理屈は後から付いてくる。
ただ、熟練したプロは、長い長い経験の蓄積があって、瞬間的に感覚で組み合わせているように見えるけれども、そのプロセスを無意識下で電光石火結び付けているのだと思う。
だから、ただの思いつきとは全然違うものなのだ。
とはいえ、おいしいものに国境はないとよく言ったものだ。
今のように、世界中の食材があまねく手に入る世の中だからこそ、新しい味、そして香りが広がるのだろう。
本当に、香りの世界と味の世界は共通点が多い。と思う。