南フランス、グラースにある植物園では5月にバラが盛りとなる。
かつて、このグラースを中心に栽培された、香料品種の「ローズ・ド・メ(5月のバラ)」がバラ畑を埋め尽くしている。
それだけでなく、観賞用のバラも色とりどりにたくさん咲いている。
バラ園はいくつかにグループ分けされているが、香りのあるバラはやはり魅力がある。
中でも、フルーティノート、果物の香りのグループには心魅かれた。
まだ青く固い果実の香り。
爽やかでみずみずしい。
りんごや梨、ベリー調の香りのバラもある。
バラの香りは、もともと洋梨の香りを含んでいる。
ゲラニルアセテート、シトロネリルアセテート、ヘキシルアセテートという匂い成分は、バラの香りを作るときに爽やかさを出す重要なノートだ。
バラの香りに、この洋梨のフルーティを強化したら・・・。
今回の新しい香水、ニュアージュローズのトップノートに何を持ってこようか迷っていた時、ふっとこのグラースのフルーティなバラの香りを思い出した。
ちょうど、とてもよい洋梨のベースを作っていたのでトップノートに合わせることにした。
洋梨の甘さ、爽やかさ、そしてとろけるバターのようなクリーミー感。
このベースを作るために、カンヌで毎日食べていた思い出の味と香り。
もちろん、よくある人工的なバラの香りではない。
とはいえ、「ナチュラルだけど素朴」ではイメージと違う。
中心になるのは天然のバラとスミレのアコード。
イリスとミモザの優しいフローラルノートでやわらかくのばす。
ラストは色が濁らないよう、質のよいサンダルウッドを少量。
今はインドマイソール産を使うのは現実的ではない。
これはスリランカ産のサンダルウッドだが、甘さがあり、とてもパワーがある。
インドネシア産、オーストラリア産などと共にいくつかの中から選んだ。
サンダルウッドの匂い自体をそれとわからないようにしながら、香水全体の輪郭を描き出す。
そういう効果を出すのは、合成のサンダルには絶対にできないことだ。
王道とも言える組み合わせ。
このよさを出すのは、ひたすら質感のよいものを過不足なく取り合わせる、生真面目なトライアル。
そしてちょっぴりのひらめき。
ニュアージュローズ、今日発売。