パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

休日読書 アガサ・クリスティ

 

アガサクリスティがもっとも有名な推理作家の一人だという意見に100711つた.jpgは、どこからも異論は出ないに違いない。

 

「本のカバー・裏表紙あらすじから

アンカテル卿の午餐に招かれたポアロは、少なからず不快になった。邸のプールの端で一人の男が血を流し、傍らにピストルを手にした女が虚ろな表情で立っていたのだ。が、それは風変わりな歓迎の芝居でもゲームでもなく、本物の殺人事件だった!恋愛心理の奥底に踏み込みながら、ポアロは創造的な犯人に挑む。 

ハヤカワ文庫 ホロー荘の殺人 アガサ・クリスティ

 

中学生時代から今に至るまで、数十年飽きずに読み続けた作家である。

「アクロイド殺人」や、「そして誰もいなくなった」など、あっと驚くようなトリックはすでによく知られているが、もし、その作品の面白さがそれだけだったなら、繰り返し読むはずがない。

ミステリーの女王と呼ばれ、からくりばかりが注目されがちだが、クリスティの小説の面白さは登場人物が織りなす人間模様と心理、豊かな叙情性にある。
テニスンやウィリアムブレイクなど、美しい詩を主軸にした作品も多く、文学作品としても素晴らしい。

すべての作品は何度となく読まれ、少し疲れると本棚の奥へとかたずけらる。数年のインターバルを挟み、ふとした時に手にし、パラパラとめくっているうちに再び虜になってしまう。年代ごとに味わいが違って感じられるのだ。

 

私の一番好きな作品は、恋愛小説とも呼べる「ホロー荘の殺人」だ。
最近、思い出したように読みたくなって、また書棚から引っ張り出してきた。


おもな舞台は美しい田園風景の中にあるホロー荘という屋敷である。
英国の名士のこの家に、週末、数人の男女が集まり休暇を過ごす中で殺人が起きる。
偶然居合わせたポワロは、この中ではむしろ狂言回しとして脇役的な存在である

主人公はだれと決められないくらい、それぞれが重要な役割を果たしているが、中でもヘンリエッタにはもっとも魅かれてしまう。美しく、知的で情熱的な、あるときは巧みに妥協し、ときにひどく頑固な女性彫刻家。無から形を生み出すと言う苦しみ、孤独な戦いと、愛に生きる姿。

結末は言えないけれども、彼女が出てくる最後のシーンは何度読んでも心を打たれる。

一方、ヘンリエッタと間逆とも言える 愚図な女、ガーダ。絶対的存在である夫の帰りをじっと待ちながら、冷えていく肉料理を前に「温めなおすかこのまま待つか」堂々めぐりの考えの中でパニックになっていく。全編に描かれる彼女の心理は、自分の中にも存在し、シンクロしてしまう。

ルーシー、ミッジ、ヴェロニカ、どの登場人物にも、自分との重ね合わさる部分があり、感情移入させ、それが物語に引き込まれていく要素でもある。

つまりは人間の多面性を、一人づつのキャラクターに独立させ、浮き彫りに描いて見せたのであって、だれもが持っている性格なのだと思う。

ポアロ、マープルといった探偵が華々しく活躍するものより、普通小説としての趣をもつ作品に、クリスティの真価があると思う。全編が詩に感じられるようでもある。

推理小説について書くのは難しい。まだ読んでいない人にとっては何を言っているか分からないし、わかるように書いてはマナー違反になってしまう。 もどかしいけれど、読んだ後で、「なるほど」と同感してくれる人がいたら嬉しい。 

 

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