開花とともに、しずしずと6本の雄蕊を従えて、雌蕊は中央に屹立する。
しべの先は潤い、あたりに濃厚な匂いを漂わせる。
においは、どこから発生しているのだろう?
昔、家の一角にカサブランカの球根を、10球ほど植えていた。
夏の夜、硝子戸をあけて庭をみると、家の光が届かない暗がりの中に
白鳥の群れが羽を休めているように、白い花がいくつも浮かんでいるのが見える。
蒸し暑い夜気の中に、狂おしいまでの匂いが淀んでいた。
カサブランカの元をたどると山百合にたどりつく。
白い大きな花には、えんじ色の班が魅力的だ。
夏に咲く山百合には、この蜜を好むクロアゲハが飛んでくる。
子供のころ山や河原で遊んだ人は、このにおいに記憶があると思う。
ユリという清楚なイメージに似つかない
妖しいまでに濃く甘い香り。
ユリの甘さはスパイシーなイソユゲノール(iso eugenol)が中心になっている。
そこに、イランイランのエキゾチックな香りに、
サリシレート系のビニールでできた花の様な青臭さ、
バナナの醗酵したフルーティな甘さが加わる。
イソユゲノールなしにゆりの香りはできないといっていいが、年々イフラの規制が厳しくなり、処方中にほんの少ししか入れられない。
そのため、ゆりの香りを再現した香水はほとんどない。
メチルイソユゲノールやアセトイソユゲノールなどでは代替できない。
ストレートな百合の香りどころか、フローラルブーケのなかにも、イソユゲノールなしではできない昔の名香もあり、これからどうなってしまうのだろうと思う。