沼から瘴気とともに人が生まれてくる。これは木の精?
まるで、溺れて沈む前の手が伸びているようだ。
ちょっと怖いけれど、これは新宿御苑に生えている、大変珍しい杉の仲間、
ラクウショウの気根(きこん)だ。
木の上をみると今はまだ細枝だけだけれど、
夏になると羽毛の様な柔らかな葉がふさふさと美しく、
まるで天使と地獄が一緒に同居しているようにも見える。
羽が落ちる松だから落羽松(ラクウショウ)という。
沼の様な湿地に生えるこの杉がここまで大きくなったのは、日本ではとても珍しい。
明治時代に植えられ、樹齢100年を超える木だそうだ。
下からにょきにょき出ていたのは、気根と呼ばれる、ラクウショウの根っこからでているもので、
酸素を取り入れる働きをしている。
上の写真の向こうに見えるように、この気根を守るために、ここは遊歩道ができている。
ちょうどショウブ園の八橋のように、木でできた橋がずっと渡っている。
しかし、今、この木に危機が迫っている。新宿御苑の下を通る、
バイパスのトンネル工事が始まったのだ。
この工事は、もう30年も前に計画されていたのだが、計画用地の買収が進まなかったことと、
もうひとつこの希少生物の保護のために、環境庁が許可を出さなかったという話を聞いた。
また、トンネル入り口付近の遺跡調査もしたりしていてちっともすすまないし、
このままずっと始まらないのかな、と思っていた。
この木は湿地でないと生息できないので、地下を掘ってしまうときっと水が抜けてしまい、
枯死してしまうのじゃないかと思う。
公共の利便性を取るか自然保護を取るか難しい問題だと思う。新宿御苑は人工の公園だし、
ラクウショウはアメリカの原産だから。
公共の事業のために立ち退きを拒む住民をエゴと言うが、木は立ち退きができない。
道路を走る人間がエゴなのか、誰がエゴなのか、よくわからないな。
みんなが自分の便利を求めすぎると、誰かが不便になるものだ。
下の写真はなんか、ウサギがおいでおいでをしているみたい。
そう思ってみると、なんだか怖いというより、そこはかとないユーモアもあって面白い光景だ。
▶ 植物事典 スギ科ヌマスギ属 学名:Taxodium distichum