新宿御苑の温室にいると、とぎれとぎれに甘い南国の花の香りが漂ってくる。
光や音は反射するとはいえ、光源や音源が繋がっているのでたどっていきやすい。
一方香りは、匂いの物質が帯となり塊となり、あちらこちらにふわりふわりと漂うし、温室の中では風に散らされることもないから、薄まったり凝縮したりしながらも、思いのほか遠くまで運ばれて行ったりする。
香源という呼び方はないが、そう名付けていいはず。
香りの源はなんだろう?
いま香っていたかと思えばまた消えて、どこからくるのか分かりにくい。
くねくねと道を歩いて、水辺にたどり着いた時ようやく香源を発見した。
ぐるっとまわった池のほとり、
派手なほど大きい花なのに、景色に馴染んで意外に目立たない。
1.2mほどの大きな白い花はタイワンハマオモトという。
仲間のハマユウ(浜木綿)の名のほうがなじみ深い。
クリーミィなラクトン調のまざった匂いは、南国の夜に海岸をぶらぶら歩くと香ってくる白い花・・・たとえばプルメリアを思わせる。
そこにすっきりしたジンジャーフラワーを合わせたような、甘さとグリーン感のある香りだ。
飛び石を伝って、そばで香りを吸ってみる。
確かに強く香るけれども、近くだからといって本質がよくわかるとも限らない。
離れたところで、きれぎれにその匂いに気を惹かれた時のほうが、印象がはっきりしている。
シルエットのほうが情報が多かったりするものだ。
➤植物事典 タイワンハマオモト ヒガンバナ科ハマオモト属 学名:Crinum asiaticum